罠抜けの恐怖!「イノシシが掘り返した後の現場に残されたメッセージとは?」
ブリット野口です。
先日、新たな猟場でくくり罠を仕掛けたところ、苦い経験をしました。
それは、罠に掛かったイノシシが自力で脱出してしまったという痛恨の出来事です。現場には、獲物の足跡と、激しい抵抗の痕跡だけが残されていました。
今回、この体験から学んだ、くくり罠の弱点と、罠に掛かったイノシシの行動について共有したいと思います。
<追記>
翌日、現場を再調査すると切れた足を発見したので、別の記事に纏めました。
痛恨の反省「OM-30型に瑕疵なし、原因は足切れだった」
罠の種類の比較「OM-30型とM式トラップ」
今回、私が使用していたのは、オリモ製作所の「OM-30型」です。この罠は構造がシンプルで設置が容易ですが、作動荷重(沈下荷重)の調整機能がないという特徴があります。
一方、OSP商会の「M式トラップ」は、踏み板の筒に開いた穴につまようじなどを差し込むことで、獲物が踏み込んだ際の沈下荷重を細かく調整できる機構を持っています。
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項目 |
オリモ製作所OM-30型(今回使用) |
OSP商会M式トラップ |
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沈下荷重設定 |
不可(基本的に一定) |
可能(爪楊枝で高精度に調整) |
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設置・埋設 |
簡単・迅速(本体が薄く、一体式のため、穴掘りが浅くて済む) |
調整作業が加わるため、やや時間を要する。 |
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作動の特性 |
動作が速い。浅く踏まれただけで作動するが、掛かりが浅くなる。 |
狙った荷重で動くため、深い踏み込み(足首より上)を狙いやすい。 |
数時間の死闘!掘り返された現場
現場の激しい掘り返しとワイヤーのねじれ、バネの破損から、獲物は数時間、命がけで逃げようと暴れたことがわかります。そして、獲物は逃走しました。今回の分析では、OM-30型の沈下荷重設定の制約が、後足への浅い掛かりにつながり、足抜けの主因となったと見ています。
足が抜けた「2つの理由」の推測
なぜ、OM-30型は獲物を拘束しきれなかったのか?
1. 最小径を確保する「締付防止金具」の隙
法令により、くくり罠のワイヤーには締付防止金具の装着が義務付けられています。これは、輪が締まりきった際に足を切断(断脚)させないよう、ある程度の最小径を確保するためです。
<掘り返しの効果>
イノシシが掘り返して足元の土がなくなると、この最小径の輪に対し、足を回転させ、最も細い部分を滑り抜かせるための空間と角度が生まれてしまいます。
2. 後足への「浅い掛かり」とOM-30型の特性
痕跡から、獲物は後足に掛かった可能性が高いと判断しました。OM-30型で浅く掛かった後足は、強い推進力を使って、拘束から逃れようとしたため、足抜けを早めたと考えられます。
<沈下荷重と浅い掛かり>
OM-30型は、沈下荷重の調整ができないため、イノシシがまだ足首まで深く踏み入れていない浅い段階で掛かった。動作の速さが裏目に出て作動したと予測されます。
<後足の推進力>
浅く掛かった状態で、後足の強い推進力が解放されると、ワイヤーが足の細い部分に滑り、さらに激しい抵抗と掘り返しが加わることで、足抜けにつながったと予測されます。
猟師の仮説
掘削行動は「意図」か「結果」か?
獲物が地面を掘る行動について、私はある仮説を立てました。イノシシは、「ワイヤーの拘束力を解除するために掘ったのか(意図)」、それとも「ただ本能的に暴れた結果、偶然ワイヤーの角度が変わったのか(結果)」という点です。
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項目 |
分析(科学的視点) |
猟師としての見解 |
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猪の意図 |
物理的な証拠なし。ワイヤーの角度を変えようと意図してない。 |
本能的な「破壊活動」として、ワイヤーを壊そうとした。 |
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物理的な結果 |
物理的な根拠あり。地面が掘られたことで、足の可動域が広がった。ワイヤーが斜めに持ち上がり、力が垂直方向へ転換。地面の摩擦抵抗が減り、足が輪から滑りやすくなった。 |
暴れた結果、偶然にも脱出に最適な物理条件を自ら作り出してしまった。 |
角度変化の恐怖「小学生にもわかるバケツの例」
掘り返しは、ワイヤーにかかる力が真横(横向き)から斜め上(上向き)に変わることを意味します。
<土がある状態>
バケツを真横に引っ張るのと同じで、地面との摩擦で動きません。ワイヤーは足を強く固定します。
<土がなくなった状態>
バケツの取っ手を斜め上に引っ張るのと同じで、バケツが地面から浮き上がり、摩擦がなくなります。ワイヤーも同じで、上向きの力によって足首から持ち上がり、簡単に抜け出せてしまうのです。
このイノシシは、本能のままに暴れた結果として、脱出のための完璧な物理的条件を自ら作り出したと言えます。この学習個体は、今後の捕獲を極めて困難にするでしょう。
罠抜けのイノシシがもたらす脅威
このイノシシは、「一度、罠に掛かったが、自力で脱出した」という経験を学習し、今後、その猟場における捕獲難易度を劇的に高める「罠抜け個体(スレた個体)」となってしまいます。
1.警戒心の極限化
今後、このイノシシは罠場周辺を危険地帯として認識し、土のわずかな違和感、人の匂い、不自然な枝の配置などを瞬時に見破るでしょう。
2.行動ルートの変更
今までの獣道は避け、より隠密性の高いルートや、人が立ち入らない深夜帯にのみ活動するようになります。
猟師としての反省と対策
<適材適所での使い分け>
今回の経験は、罠の種類の特性を理解し、適材適所で使い分ける重要性を教えてくれました。OM-30型は、その仕掛けの簡単さ、動作の速さ、穴掘りが浅くて済む(本体が薄い)という大きなメリットがあります。これは、急いで広範囲に罠を仕掛けたい場合や、頻繁に罠を移動させる場合に非常に有効です。しかし、慎重で警戒心の高い大型個体を狙う場合や、獲物に確実に深く掛けたい場所では、M式トラップのような沈下荷重を設定できる罠を選ぶべきでしょう。
<今後の対策>
➀OM-30型(オリモ)
軽度な獣道や、罠を警戒していないと思われる場所、迅速な設置が必要な場合に活用する。
➁M式トラップ(OSP)
警戒心が強い個体の行動ルートや、大型個体が確認されている場所など、高い精度と深い掛かりが求められる場所に限定して使用する。
両者の特性を活かしたハイブリッドな罠の設置を追求し、この「スレたイノシシ」を捕獲するという最大の課題に挑みたいと思います。
自然の知恵と獲物の生命力に敬意を表し、次の罠の設置に活かしていきたいと思います。
皆さんも、猟をする際は細心の注意を払ってください。
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