猪に足を噛みちぎられた12月の厳しい猟果
ブリット野口です。
佐賀県唐津市厳木町。作礼山の懐に抱かれたこの地で、くくり罠猟に取り組む私の猟期前半は、天国と地獄を同時に味わう大きな試練に直面しました。
10月に猪6頭を捕獲し、好調な滑り出しを見せたものの、11月は定番のエリア❶で、かろうじて1頭を得るだけに留まりました。
12月に入り、私は遊漁船でのエギング見学から得た「自然を読む力」を応用し、起死回生の勝負に出ましたが、そこには凄惨な結末と、無残な猟果「ゼロ」が待っていたのです。
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猟場 |
エリア |
罠の数 |
12月猟果 |
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定番ポイント |
エリア❶ |
12ヶ |
0頭 |
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新規ポイント |
エリア❸ |
6ヶ |
0頭 |
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合計 |
3エリア |
18ヶ |
0頭 |
この痛恨の失敗から導き出した「標高による植生の変化」が猪を再び里へと押し戻す「1月の逆流」という仮説について、検証します。
<参考記事>
捕獲ゼロから学ぶくくり罠猟の戦略「10月と11月の経験から導く12月の猪捕獲術」
1. 遊漁船で学んだ三つの「流儀」
私の狩猟の精度を劇的に変えたのは、玄界灘を知り尽くした遊漁船の船長から学んだ三つの知性です。この流儀を、厳木の山に当てはめました。
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遊漁船での流儀 |
里山への応用 |
狩猟における重要性 |
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1. 潮流を読む |
標高による植生変化と「必然ルート」の特定 |
罠設置の「場所」の精度 |
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2. 風を読む |
風裏の利用と匂いのコントロール |
猪の警戒心への「配慮」 |
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3. タイミングを読む |
獲物の活性(時合い)と設置時間の見極め |
罠を仕掛ける「時」の精度 |
2. 山の潮流「10月から12月に植生が変える猪の動線」
なぜ、10月は獲れ、12月は沈黙したのか。その答えは、厳木の山を流れる「どんぐり前線」という潮流にありました。
➀10月の潮流「里山の爆食期」
10月に入ると、猪たちは里山(標高100〜200m)に居座っていました。山の上のどんぐりはまだ青く、里には刈り取り後の二番穂や柿、栗が溢れていたからです。彼らにとって里は「リスクを冒しても通う価値のあるレストラン」でした。
➁11月〜12月の潮流変化「どんぐりによる山への引き揚げ」
しかし、11月後半から潮目が変わります。標高の高い場所から順に、ミズナラやコナラが熟し、落果を始めます。さらに12月に入ると、アラカシやシラカシのどんぐりが地面を埋め尽くします。猪の食欲のベクトルは、人目に付く里山を捨て、一気に安全な「山の深部」へと向けられました。
私はこの潮流の変化を読み、新規ポイントである「エリア❸」に活路を見出したのです。
3. 12月の痛恨「新規ポイントの崩壊」
エリア❸は、北西の風を遮る尾根の裏側にある「風裏の寝屋」と、沢のヌタ場を結ぶ猪の「生命線」でした。
➀潮流を読む「読み通りに掛かった猪」
どんぐりの落下状況と地形図を照合し、等高線が緩やかに膨らむ尾根筋と水場が繋がる出入口に的を絞り、罠を設置しました。数日後、読みは的中し、大型の猪が罠に掛かりました。戦略の勝利を確信した瞬間でした。
➁凄惨な結果「足を噛みちぎって逃亡」
しかし、現場で見つけたのは、自らの足を噛みちぎって逃亡した猪の痕跡でした。激しい掘り返しと引きちぎられた前足。
エリア❸全体に「死の恐怖」が伝播し、猪は二度とそのルートを通らなくなりました。私の12月の猟果は「ゼロ」で確定。一つの技術的なミスが、エリア全体のポテンシャルを死滅させたのです。
4. 1月の逆流を予測「飢えが猪を再び里へ押し戻す」
絶望の12月が過ぎると、厳木の山には新たな「潮流」が生まれます。それは、山奥のレストランの閉店です。12月に地面を埋め尽くしていたどんぐりは、1月になると食べ尽くされます。餌が不足し、貯金を使い果たした猪たちは、背に腹は代えられず、再び標高を下げ始めます。
➀「掘り返し」の再開
山の実がなくなると、彼らは土の中の葛の根やミミズを求め、人間が耕した柔らかい畑の跡地や、里山の湿った沢筋を再び目指します。
➁南向き斜面への集中
寒さが極まる1月、北斜面の土は凍りつきます。鼻先を痛めるのを嫌う猪は、日当たりの良い南向きの土手や、凍らない水場付近に集中して現れるようになります。
➂風を読む
警戒心が頂点に達した1月の猪に対し、地図とコンパスで「風向き」を特定し、北西の風を遮り、日当たりが良い場所を特定します。そして、自分の匂いを一筋も残さないアプローチを徹底します。
➃タイミングを読む
猪が寝静まっている日中の最短時間で罠の設置を終え、「時間的猶予」を稼ぐことで、人間の気配を消します。
5. 結論「自然との対話へと進化した狩猟スタイル」
1月に里に戻ってくる猪は、12月のどんぐりで磨き上げられた「最高の脂」を蓄えた猛者たちです。猟果ゼロの期間に、私の狩猟スタイルは、単なる「罠の設置」から、自然との奥深い「対話」へと進化を遂げました。 足を噛みちぎって逃げたあの猪が教えてくれたのは、生への執着と、それに対峙する私の覚悟の甘さでした。
年が明け、1月に入ると、再び里へと動き出す「極上の脂」を持つ猪たちを、私は進化した流儀で迎え撃ちます。
<参考記事>
「潮を読んで山を歩く」遊漁船の経験が里山の猪猟を変えた話とは?
Tags: 狩猟