厳木の石から歴史を学ぶ、サイクルガイドツアーとは?
ブリット野口です。
はじめに
唐津市の南部に位置する厳木町の現在の人口は、3,332人(2025年8月)です。炭鉱で栄えた70年前は、20,000人弱の人が住んでいました。
厳木町史で歴史を振り返り、現代の厳木町を自転車で散策してみると、炭鉱の面影は町から消え、高齢者に話を尋ねても、はっきりとした答えを見つけることができず、時間が過ぎていきます。
しかし、里山の奥には炭鉱の遺構が残っていたり、廃道を観察すると、鉱区石杭など、新しい発見がありました。
また、獅子城の周辺に放置されている丸い石に興味を持って、調べてみると、砥石の採掘がされていたことや、江戸時代から残る水路など、厳木川が物流の要であったことが、分かりました。それらを多角的に繋げると、自然環境、産業、文化、そして、平安時代から現代までの流れが複雑に絡み合い、それぞれの地域の形を作っていることも分かりました。
そこで、石から学ぶ厳木のガイドツアーを造成しました。ガイドと旅人の会話形式で、わかりやすく紹介します。
厳木の石から歴史を学ぶ、サイクルガイドツアーへようこそ!
ガイド: こんにちは!今日は、佐賀県唐津市厳木町のちょっと不思議な物語をご案内します。三つの石の歴史を紹介します。三つの石とは、「獅子城」「石炭」「砥石」。一見バラバラに見える、これらの石が、どのように厳木の歴史を紡いできたのか、一緒に見ていきましょう。
旅人: 獅子城と石炭と砥石ですか?確かに、全然関係なさそうですね。どんな繋がりがあるんでしょうか?
ガイド: そうですよね。でも、この3つは、厳木町の歴史、経済、文化を形作る上で、切っても切り離せない関係なんです。
ツアーの始まり:厳木駅と歴史を物語る給水塔
ガイド: ツアーは、趣のある厳木駅からスタートです。駅舎の隣にそびえ立つ、あの給水塔にご注目ください。
旅人: あ、あれですね!古いけど、なんだか歴史を感じます。
ガイド: その通りです。かつて、この厳木で石炭が盛んに採掘されていた頃、この給水塔は、石炭を運ぶ蒸気機関車に水を供給する重要な役割を担っていました。日本の近代化を支えた多くの石炭が、ここから運ばれていったんですよ。
旅人: なるほど!給水塔一つにもそんな物語があるんですね。
ガイド: では、自転車に乗って出発しましょう。この自転車道は、実は、江戸時代に人々が歩いた街道を基にして整備されたものなんです。道中には、厳木川からの水路が並行して流れ、水のせせらぎが心地よいですよ。
旅人: へえ、江戸時代の街道を自転車で走るなんて、ロマンがありますね!昔の人々もこの道を歩いていたんですね。
厳木の歴史を紐解く3つの石
ガイド: さて、厳木には、町の歴史を物語る「3つの石」があります。それは、獅子城の石垣、石炭、そして、厳木砥石です。このツアーでは、この3つの石を巡りながら、厳木の深い歴史を体感していきます。
1. 獅子城の石垣:戦国時代の重要拠点
ガイド: 最初に訪れるのは、厳木町の歴史を語る上で欠かせない獅子城跡です。
旅人: お城なんですね!どんなお城だったんですか?
ガイド: 戦国時代に、この地を治めた鶴田氏が再興した山城です。厳木川を見下ろす崖の上に築かれ、交通の要衝を押さえる重要な役割を果たしていました。松浦党の一族、波多氏がこの地域を含む上松浦を支配していたんですよ。
旅人: 戦国時代の重要拠点だったんですね。今はどうなっているんですか?
ガイド: 豊臣秀吉の時代に波多氏が改易(領地没収)となり、一族の鶴田氏も領地を没収されました。その後、唐津城を築いた寺沢氏がこの地を支配します。獅子城は、この頃に石垣に改築され、その後、廃城になったと考えられています。城跡には石垣の一部や空堀が残り、当時の面影を偲ぶことができますよ。
旅人: へえ、石垣に改築されたんですね。歴史を感じながら、景色も楽しめるなんて素敵です!
2. 石炭:日本の近代化を支えた地下資源
ガイド: さて、次は厳木町の地下に眠っていた、もう一つの重要な石、「石炭」の物語です。
旅人: 石炭ですか!炭鉱があったんですね。
ガイド: その通りです。厳木町を含む佐賀県北部地域は、良質な石炭が豊富に埋蔵されていて、筑豊炭田と並ぶ重要な炭田地帯だったんですよ。特に厳木町で産出された「厳木層」の石炭は質が良く、日本の近代化を支える重要なエネルギー源となりました。
旅人: 日本の近代化を支えたなんて、すごいですね!
ガイド: 明治時代に入ると、産業革命の本格化で石炭の需要が爆発的に増え、厳木町では多くの炭鉱が開かれました。町は活気に満ちた鉱山の町として大いに栄え、人口も急増したんです。
旅人: 活気のある町だったんですね。
ガイド: 石炭は、製鉄所の燃料や蒸気船の動力として、日本の重工業を支えました。しかし、昭和30年代になると、エネルギー革命で安価な石油が主流になり、厳木町の炭鉱も次々と閉山していきました。
旅人: それは、町の経済に大きな影響があったでしょうね…。
ガイド: ええ、大きな打撃でしたが、石炭の歴史は今も町の記憶として深く刻まれています。
3. 厳木砥石:職人技を支えた特産品
ガイド: 厳木町には、もう一つ重要な地下資源がありました。それが「厳木砥石」です。
旅人: 砥石ですか!どんな砥石なんですか?
ガイド: 非常にきめ細かく、硬度が高く、優れた研磨能力を持つことから、古くから高級な砥石として知られていました。特に、刀剣や木工道具、理容ハサミなどの研磨に用いられ、その品質は全国に知れ渡っていたんですよ。
旅人: すごい、高級品だったんですね。どこから採れたんですか?
ガイド: 実は、廃城となった獅子城から採掘され、職人の手によって一つ一つ丁寧に加工されていたんです。砥石は、単に研磨するだけでなく、刃物をより鋭く、美しい光沢を与える役割も担っており、職人たちにとっては欠かせない道具でした。
旅人: お城と砥石も繋がっていたんですね!
ガイド: そうなんです。昭和に入っても高く評価されていましたが、工業化の進展で人造砥石が普及し、天然砥石の需要は減少しました。現在、厳木砥石の採掘はほとんど行われていませんが、その品質の高さは今も伝説として語り継がれています。
獅子城、石炭、砥石の繋がりとは?
ガイド: さあ、これで3つの石の物語をたどりました。では、これらがどのように繋がっていたのか、見ていきましょう。
旅人: ぜひ教えてください!
ガイド: まずは地形的な繋がりです。獅子城は、厳木川沿いの崖の上に築かれ、町全体を見渡せました。この厳木川流域には、唐津炭田の岩屋炭鉱があり、良質な石炭が産出されました。
旅人: なるほど、川が重要だったんですね。
ガイド: ええ、これらの炭鉱の発展には、石炭を効率的に輸送するための厳木川の存在が不可欠でした。厳木川は物資を運ぶだけでなく、水車の動力としても利用され、町切地区では400年前から農業用水として水車が使われています。
ガイド: 次に、経済的な繋がりです。獅子城が廃城となり、唐津藩の支配下に入った江戸時代、厳木町の主要産業は農業でした。しかし、江戸時代に石炭が見つかり、採掘が始まると、明治時代以降は石炭が町の主要産業となり、厳木町は近代的な鉱山の町へと変貌を遂げます。
旅人: 石炭が町の経済を大きく変えたんですね。
ガイド: その通りです。石炭産業の発展は町に活気をもたらし、多くの人々の生活を支えました。そして、石炭と砥石は、獅子城周辺から採掘され、岩屋駅や厳木駅から蒸気機関車で唐津港まで運搬されていました。
ガイド: 最後に、文化的な繋がりです。獅子城は、厳木町の地理と歴史に深く根ざした城跡であり、この地の文化的な土壌を形成しました。石炭は、町の近代化と繁栄を象徴する一方で、閉山という苦難の歴史を町にもたらしました。
旅人: 砥石はどうでしょうか?
ガイド: 砥石は、厳木町の職人文化と伝統を今に伝える貴重な遺産です。日本刀をはじめとする日本の刃物文化は世界的にも独特ですが、厳木砥石は、切れ味を追求する職人の感性と美意識を支える重要な道具であり、日本の伝統工芸を陰で支えてきた存在なんです。
旅人: それぞれが、厳木町の文化を形作る要素だったんですね。
地域資源が織りなす歴史と「栄枯盛衰」の教訓
ガイド: 獅子城、石炭、砥石という一見バラバラな要素は、厳木町の地形、特に厳木川という自然環境によって深く結びついています。山城の築城、地下資源の発見と採掘、そして、その輸送に至るまで、地域の自然環境が歴史の舞台となり、町の経済や文化を形作ってきたことがわかります。
ガイド: 厳木町が経験した盛衰の歴史からは、どんなに栄えたものでも、時代の流れや社会の変化によって役割を終えることがあるという「栄枯盛衰」の教訓を学ぶことができます。
旅人: 確かに、獅子城も、石炭産業も、厳木砥石も、時代の変化とともに役割を終えていったんですね。
ガイド: その通りです。戦国時代に交通の要衝として重要だった獅子城は、支配者が変わると廃城となりました。日本の近代化を支えた石炭産業も、エネルギー革命によって終焉を迎えました。高品質で重宝された厳木砥石も、人造砥石の普及により需要が減少しました。
おわりに
ガイド: 閉山した炭鉱や採掘されなくなった砥石、廃城となった獅子城は、単なる過去の遺物ではありません。これらは、厳木町が経験した繁栄と苦難の歴史を今に伝える貴重な遺産であり、町の文化やアイデンティティの一部として、地域に深く、根付いています。
旅人: 過去のものが、今に繋がっているんですね。
ガイド: ええ。そして、時間の経過と共に、過去の遺産は、現代において、新たな価値を生み出し、地域振興の力になる可能性を秘めています。一つの地域の歴史を多角的に掘り下げることで、自然環境、産業、文化、そして時代の流れが複雑に絡み合い、それぞれの地域を形作っていることを、この物語を通して伝えたいと思っています。
旅人: 石から学ぶ厳木の歴史、とても興味深かったです!ありがとうございました!
ガイド: こちらこそ、ありがとうございました。この他にも、厳木の石造物文化、肥前狛犬と肥前鳥居を巡る旅も面白いですよ。
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