【2月猟果報告】早すぎる春の鼓動とパニックが招いた連鎖捕獲の全貌

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ブリット野口です。

1. はじめに:季節の境界線が消えた2月の里山
2026年2月末日、今シーズンの狩猟期間が幕を閉じました。
振り返れば、今年の2月は「異常」という言葉なしには語れない1ヶ月でした。1月の記録的な暖冬を引き継ぎ、猟場では2月初旬から早くもウグイスの初鳴きが響き渡るという、例年では考えられない「前倒しの春」が到来したのです。

「ホーホケキョ」と朗らかに鳴くウグイスの声とは裏腹に、私の仕掛けた罠の周囲では、繁殖本能と生存本能が激しくぶつかり合う、極めて濃密なドラマが展開されていました。

2. データが語る「2026年2月」の正体
今月の猟場を分析する上で欠かせないのが、アメダス唐津の気象データです。前年(2025年)と本年(2026年)を比較すると、いかに今年の条件が特異であったかが浮き彫りになります。

【2月気象統計比較:アメダス唐津(上・中・下旬)】

期間

降水量(合計)

平均気温

平均最高気温

平均最低気温

上旬(1-10日)

2025

29.5㎜ 3.4℃ 6.8℃ 0.8℃

2026

11.5㎜ 5.9℃ 10.8℃ 2.0℃

中旬(11-20日)

2025

7.5㎜ 5.8℃ 10.4℃ 1.1℃

2026

10.5㎜ 9.6℃ 14.6℃ 5.3℃

下旬(21-28日)

2025

4.5㎜ 5.1℃ 10.3℃ 0.8℃

2026

94.5㎜ 11.9℃ 15.0℃ 8.0℃

このデータから読み取れるのは、「上旬の極端な乾燥」と、「月を通して一貫して高い気温」、そして、「下旬の記録的な大雨」という三段階の変化です。

3. 上旬:乾燥パニックと「5メートルの死線」
2月上旬、降水量はわずか11.5mm。乾燥し、枯れ葉を踏む音が山中に響くシビアな状況下で、オス2頭の捕獲に成功しました。ここには繁殖期のオス特有の心理が働いていました。
①18時の咆哮
1頭目は、日没直後の18時頃、「ブヒー!」という一度きりの叫び声を残して罠に掛かりました。通常なら夜を待つはずの個体が、薄明かりの中で大胆に動いたのは、暖かさによって繁殖行動がピークに達していたからに他なりません。
②パニックの連鎖
特筆すべきは2頭目の捕獲です。1頭目の叫び声と、乾燥した空気中に鋭く響いた金属音。それに驚き、冷静さを失った別の個体が、逃げようとした先――わずか5m隣に伏せていた「二段構え」の罠を踏み抜いたのです。「罠を弾いて驚いた先に、また罠がある」。乾燥期ゆえに増幅された「音」の恐怖が、オスの判断力を奪った瞬間でした。

4. 中旬:気温上昇が呼び覚ました生命
中旬に入ると、平均気温は前年より約4℃も高い9.6℃まで上昇。最高気温にいたっては平均で14.6℃に達しました。この急激な温まりが、山のパワーバランスを一変させました。
①平地の掘り返しと中型獣の活性
それまで沈黙を守っていたアライグマやタヌキといった中型獣が、冬眠に近い状態から一気に目覚め、足跡が激増。それに伴い、罠が作動してしまう「空弾き」も4回発生しました。一方で、猪たちのターゲットも明確になりました。彼らが執拗に狙ったのは、平地に群生する「葛(クズ)の根」です。栄養を蓄えた葛の根を掘り起こすパワー溢れる痕跡が、平地のあちこちで見られるようになりました。

5. 下旬:豪雨と「見切り個体」との知恵比べ
猟期最終盤、下旬には94.5mmという、前年の20倍近い雨が降りました。この大雨が、乾燥していた土を一気に緩ませました。猪にとって、深い場所にある葛の根を掘り出す絶好のチャンスです。

しかし、獲る側にとっては苦戦を強いられました。雨で土の匂いや罠のカモフラージュが変化したのか、「わなの掘り返し(4回)」という事案が発生。これは、罠の存在を察知した個体(おそらく慎重なメスや老獪な大型個体)が、罠を避ける、あるいは掘り出すことで違和感を排除しようとした結果だと思われます。

「空弾き4回、掘り返し4回」。この数字は、活発に動くオスたちの裏で、冷静にこちらを見切っている個体たちが確実に存在していることを示しています。

6. 2月総括:早すぎる春に学んだこと
今月の猟果は、オス2頭。
データが示す通り、「乾燥から豪雨へ」という劇的な変化と、「春を錯覚させるほどの高温」が、獲物の動きを加速させました。
①上旬: パニックを逆手に取った「至近距離設置」が功を奏した。
②中旬: 気温上昇による中型獣の干渉と、餌場(葛場)への集中が鮮明になった。
③下旬: 大雨による土質の変化が、猪の食欲を刺激する一方で、罠の見切りを誘発した。
ウグイスが鳴き、葛が掘られ、雨が降る。まさに自然の猛烈なサイクルを肌で感じた1ヶ月でした。

おわりに:2025-2026シーズンの閉幕
本日をもって、10月から始まった今シーズンの狩猟期間がすべて終了しました。記録的な暖冬、そしてこの2月の劇的な天候変化……。自然を相手にする狩猟において、「例年通り」がいかに通用しないかを痛感させられたシーズンでもありました。罠を弾かれた悔しさも、泥にまみれて捕獲した瞬間の安堵も、すべては山の豊かさが教えてくれた教訓です。

次回のブログでは、今シーズン全体の総括を予定しています。
「厳木の里山を思考する。2025-10月〜2026-2月狩猟総括」
半年にわたる戦いの全記録を、よりマクロな視点で振り返りたいと思います。
今シーズンもお読みいただき、ありがとうございました。また次回の総括でお会いしましょう!

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