【猪の豚熱感染ルートを追う】佐賀・福岡のデータが暴く「二つの感染ルート」:脊振の尾根か、国道のタイヤか
ブリット野口です。
2026年3月、佐賀県の狩猟期間が閉幕しました。
佐賀市鍋島で自転車店と旅行業を営み、鳥獣保護管理員として活動する私にとって、今シーズンは「猪の足」と「人間の経済活動」が交差する残酷な現実をデータで突きつけられた150日間でした。
先日、出席した鳥獣保護管理員会議での緊迫した議論と、両県が公表した最新の陽性個体データを照合した結果、福岡県内への猪の豚熱感染拡大には「二極化された全く異なるルート」が存在するという確信に至りました。
1. 佐賀・福岡「陽性データ比較表」:ルート別の特徴
まず、両県の公的な発生記録から、特徴的な検体をピックアップして比較します。
【ルートA:七山・糸島ライン(自然感染型)】
佐賀県北部の発生から、福岡県糸島市へ「染み出す」ように伝播したルートです。
| 県名 | No | 発見・確認日 | 場所 | 状況 | 分析の視点 |
| 佐賀 | 102 | R7.8.7 | 唐津市北波多 | 成獣・捕獲 | 七山へ続く山塊の入口 |
| 佐賀 | 104 | R7.8.13 | 唐津市鏡 | 成獣・死亡 | 沿岸寄りの山林での発生 |
| 福岡 | 5 | R7.9.10 | 糸島市 | 成獣・死亡 | 糸島での初発生(佐賀から1ヶ月後) |
| 福岡 | 17 | R7.10.25 | 糸島市 | 幼獣・死亡 | 山間部での家族群への浸透 |
| 福岡 | 18 | R7.10.26 | 糸島市 | 幼獣・死亡 | 特定の場所で爆発的な二次感染 |
| 福岡 | 22 | R7.11.17 | 糸島市 | 幼獣・死亡 | 秋の移動期 |
| 福岡 | 24 | R7.11.23 | 糸島市 | 成獣・死亡 | 成獣の死亡が頻発 |
| 佐賀 | 128 | R7.12.1 | 唐津市七山白木 | 成獣・捕獲 | 県境至近の尾根沿い |
| 佐賀 | 133 | R7.12.19 | 唐津市七山林ノ上 | 成獣・捕獲 | 脊振山系西端の回廊 |
| 福岡 | 31 | R7.12.29 | 糸島市 | 成獣・捕獲 | 七山の発生と時間的に完全に一致 |
| 佐賀 | 136 | R8.1.8 | 唐津市七山荒川 | 成獣・捕獲 | 七山エリアの全域が陽性圏に |
| 福岡 | 34 | R8.1.15 | 糸島市 | 成獣・死亡 | 糸島内での感染が「自走」し始める |
| 福岡 | 41 | R8.2.10 | 糸島市 | 成獣・死亡 | 餌を求めて移動する |
| 福岡 | 42 | R8.2.14 | 糸島市 | 成獣・死亡 | 末期的な大量死フェーズ |
【ルートB:久留米・筑後ライン(物流感染型)】
佐賀県中央部の山系に発生がない時期に、突如として福岡県南部の平地に現れたルートです。
| 県名 | No | 発見・確認日 | 場所 | 状況 | 分析の視点 |
| 福岡 | 1 | R7.8.12 | 久留米市 | 成獣・死亡 | 突発的な「飛び地」発生 |
| 福岡 | 3 | R7.8.28 | うきは市 | 成獣・死亡 | 国道210号・高速沿い |
| 佐賀 | 114 | R7.10.6 | 三養基郡基山町 | 幼獣・死亡 | 交通の要衝 |
| 福岡 | 19 | R7.10.28 | 太宰府市 | 幼獣・死亡 | 都市近郊へのジャンプ |
| 福岡 | 28 | R7.12.19 | 筑紫野市 | 成獣・死亡 | 高密地での爆発 |
| 福岡 | 29 | R7.12.19 | 筑紫野市 | 幼獣・死亡 | 地域内での二次感染 |
| 福岡 | 32 | R8.1.9 | 広川町 | 成獣・捕獲 | 九州自動車道・国道3号軸 |
| 佐賀 | 139 | R8.1.19 | 鳥栖市山浦町 | 幼獣・死亡 | 福岡側から佐賀東部への逆流入 |
| 福岡 | 43 | R8.2.25 | 筑紫野市 | 成獣・死亡 | 汚染の継続 |
2. 仮説検証①:七山・糸島ラインは「自然感染」である
糸島市での発生(No.5, 17, 31等)は、佐賀県唐津市東部(北波多・鏡)での発生から約1ヶ月のタイムラグを経て確認されています。その後、12月には七山の県境付近と糸島市内で同時に陽性が確認されるようになりました。
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地形的根拠: 七山から糸島にかけての脊振山系西端は、標高が安定し、猪にとって、障壁の少ない連続した森林地帯です。
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検証: ここでは、人間がウイルスを運ぶよりも先に、猪が寝屋やヌタ場を共有し、鼻を突き合わせながら移動する「面的な拡大」が起きています。幼獣や亜成獣の死亡が目立つのも、家族単位での自然な感染連鎖を裏付けています。
3. 仮説検証②:久留米・筑後ラインは「物流感染」である
一方で、久留米市やうきは市、広川町での発生(No.1, 3, 32等)は、地理的な「跳躍」が顕著です。当時、佐賀県の中央部(三瀬や小城周辺)にはまだ陽性データが乏しい時期でした。
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交通的根拠: 発生地点は国道3号、210号、九州自動車道といった広域物流の動脈に集中しています。
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検証: 管理員会議で行政側が強く主張した「物流業者や事業者のトラック」による媒介説。タイヤに付着したウイルスを含んだ泥が、一気に数十キロ先へ運ばれ、路肩やサービスエリア付近で地元の猪に接触した。まさに「ロードサイド感染」によるジャンプです。
4. 管理員会議が突きつけた「猟師の責任」
会議では、現場の管理員から「巻き狩りの猟犬が感染を広げている」という切実な指摘が上がりました。また、「他県からの狩猟者登録を自粛ではなく断るべき」という過激とも取れる意見も出されました。
データが示す「自然移動」と「物流媒介」の二つのルートは、この「人の動き」によってさらに加速します。特に七山・糸島のような自然移動ルートにおいて、猟犬がヌタ場の泥を体に付けて別の山へ移動すれば、本来、数ヶ月かかるウイルスの移動は数時間に短縮されます。他県から訪れる猟師の車両が未消毒であれば、それは「物流トラック」と同じ役割を果たしてしまいます。
結び:2026年11月、セカンドウェーブの戦場へ
今回の分析で明確になったのは、「ウイルスは山続きから攻めてくるだけでなく、道を通ってどこにでも現れる」という事実です。私は、2月で罠を置きましたが、オフシーズンの間に猪の再生産(出産)は進みます。2026年11月の次期シーズン、七山・糸島ラインでは「染み出すような拡大」がさらに東へ進み、筑後ラインでは「物流で火がついた拠点」から周囲の未感染地帯へ爆発的に広がることが予想されます。
鍋島で自転車を扱い、日々「移動」を支える仕事をしている私にとって、車両や機材がウイルスを運ぶという仮説は、痛いほど重く響きます。自転車のチェーンを洗浄するように、自らの移動動線を清浄に保ち、次期シーズンに「ウイルスを持ち込まない・持ち出さない」準備を整える。それが、管理員として、そして、一人の猟師として、厳木だけではなく、佐賀・福岡の山を守る唯一の道だと信じています。
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