100日ダイエット「第7回」ものさしの崩壊と真実を掴むための再構築
ブリット野口です。
開業19年目の自転車店主が、最新AIと共に「100日間で5kg減量」に挑むダイエット記録。
第1回:52歳100日ダイエット開始
第2回:心拍と足裏で身体を調律
第3回:AIプロチームの分析
第4回:データで管理する「身体の調律」
第5回:52歳の壁と無意味な疾走
第6回:数字の解釈と職人の違和感
3本ローラーが暴いた機械の嘘 ~ データという名の「ものさし」を疑う勇気~
52歳、100日ダイエット。その折り返し地点である50日目。
順調に見えた実験に、突如として「崩壊」が訪れた。これまでの軌跡、そして、4月20日に起きた「ものさしの崩壊」と、そこからの再出発を記す。
1. 平穏な日常と、忍び寄る違和感
4月20日までの50日間、クロモリロードとパワータップのコンビは、私の実験にとって理想的なラボであった。3本ローラーという外的要因が極端に少ない環境下で、ギア比と回転数を固定し、トルクをかける。この「入力」に対し、パワーという「出力」を監視することで、私の身体は常に一定の負荷で調律されてきた。
| 日付 | 体重 (kg) | 安静時心拍数 | NP (W) | 睡眠時間 (h:m) |
| 4/10 | 68.8 | 52 | 139 | – |
| 4/11 | 68.8 | 52 | – | 5:18 |
| 4/12 | 68.2 | 59 | – | 5:13 |
| 4/13 | 68.0 | 56 | 132 | 6:55 |
| 4/14 | 68.0 | 58 | – | 6:14 |
| 4/15 | 67.8 | 63 | 131 | 6:27 |
| 4/16 | 68.2 | 56 | – | 5:13 |
| 4/17 | 67.8 | 59 | 135 | 6:22 |
| 4/18 | 68.4 | 58 | – | 5:53 |
| 4/19 | 68.2 | 58 | – | 4:53 |
| 4/20 | 67.6 | 58 | – | 5:23 |
ここで得られた最大の収穫は、減量の数字そのものではない。ペダルにかかるトルクと回転数から、自分のパワーを±5Wの誤差で予測できる「人間パワーメーター」としての感覚の習得だ。
2018年から2021年まで、MTBレースに挑んだ3年間の鍛錬は、私の身体を極限まで最適化し、心肺効率を劇的に向上させていた。コロナ禍で一度は競技から離れたが、その期間に培った「パワーの感覚」は、5年の時を経ても私の身体に深く刻まれていたのだ。だが、その最適化こそが、私の「燃費」を上げ、停滞期という名のパラドックスを招くことになった。身体は維持費の高い筋肉を温存し、エネルギー消費を抑えるよう進化してしまったのだ。
2. 事件:4月20日の崩壊
いつものルーティーン。10日間のデータを分析すると「フィジカル、トレーニング共に、数値の変化は、ほとんどない。」
しかし、違和感は一瞬で訪れた。10日目のトレーニングでパワーメーターが示す数値が、過去の物理的相関から完全に乖離していた。
30W、いや、50Wの誤差。校正値は「-14」。電池リセット、再ペアリングなど、対策を施してみたが、翌21日の検証で「600W」という異常値を検出した。
ここで私は、トレーニングを即座に中止した。この判断ができたのは、私が数字を盲信していたからではない。私の中に蓄積された「身体のキャリブレーション(校正)」が、機材の死を告発したからだ。3本ローラーという閉ざされた環境では、物理法則は裏切らない。昨日まで「同じギア×回転数」で出ていたパワーが今日出ないなら、それは私の身体のせいではない。機材の故障だ。データは嘘をつかないが、データが乗る「ものさし」は嘘をつく。
狂った数字で自分を騙し続けることこそ、実験者として最大の敗北であると直感した。私は、自分が積み上げてきたデータの純度を守るため、その場で実験を停止する道を選んだ。
3. 転換:パイオニアという「真実」への換装
私は、予備のパワータップホイールを持っている。しかし、同じ爆弾を抱える機材に未来はないと判断した。代わりに選んだのは、かつて、屋外トレーニングでデータを収集し、信頼を置いていた「パイオニアのクランク計測」だ。パワー効率のデータが加わるので実験環境のアップグレードである。
クロモリからカーボンへ、パワータップからパイオニアへ。
機材が変われば当然、導き出される数値も変わる。だが、それこそが50代の身体というブラックボックスを解剖する真の実験だ。
これまで150Wだと思っていた出力は、実はパイオニアで測るとどうなのか?
この問いに答えを出すことこそが、後半戦の物語を加速させる。機材の不調を運が悪かったで済ませるつもりはない。これは、私の実験環境をより高精細なものへと強制的に進化させるための、天からの啓示なのだ。
4. 後半戦:再定義のロードマップ
4月21日から30日までの10日間は、新しい「ものさし」を己の身体に馴染ませる期間である。パイオニアのクランクで測る「真の150W」を、再び、3本ローラーの物理定数とすり合わせる。
5月からは、この再定義されたデータをもとに、100日目のフィナーレへ向けて「極限の引き算」を敢行する。身体が維持費の高い筋肉を削らず、脂肪を燃やし尽くすためのギリギリのライン。それを管理するのは、もはやデジタルデバイスではない。機材と身体、双方の嘘を見抜く、私の職人としての感覚である。
より精度の高いはずの「ものさし」を手に入れた。だが、それが本当に正しいかどうかは、まだわからない。たとえ、正しく測れていたとしても、その数字が何を意味するかは別の問題だ。実験はまだ終わらない。
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