100日ダイエット「第5回」30日で−0.4kg。52歳の壁と無意味な疾走。

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ブリット野口です。

開業19年目の自転車店主が、最新AIと共に「100日間で5kg減量」に挑むダイエット記録。
第1回:52歳100日ダイエット開始
第2回:心拍と足裏で身体を調律
第3回:AIプロチームの分析
第4回:データで管理する「身体の調律」

■ 31日間の「検証結果」:科学は私に微笑まなかった
3月31日。100日プロジェクトの3分の1を終えた今朝、私はガレージに差し込む冷ややかな光の中にいる。
日中は油にまみれ、他人の自転車のボルトを締め、異音を消し去ることに心血を注ぐ。そんなプロの整備士としての指先が、今、キーボードを叩き、自分という「最大の問題車両」の診断結果をテキストとして打ち込んでいる。

まずは、この10日間の血の滲むような、そして、残酷なまでに「平坦」なデータを公開する。

日付 体重 (kg) 体脂肪率 (%) 筋肉量 (%) 安静時心拍 トレーニング内容・備考
3/21 (土) 67.8 23.3 72.6 58 睡眠良好(深い1時間13分)
3/22 (日) 69.0 23.5 72.5 65 体重・心拍ともに急増。
3/23 (月) 68.4 22.8 73.1 56 平均141W / 平均速度36.3km/h
3/24 (火) 68.2 22.6 73.3 56 安静時心拍は安定。
3/25 (水) 67.8 22.1 73.7 59 平均142W / 筋肉量が増大。
3/26 (木) 67.4 22.8 73.0 55 3月最軽量を記録するも……。
3/27 (金) 68.2 22.9 73.0 平均150W / 自己ベストの出力。
3/28 (土) 67.6 23.4 72.5 61 深い睡眠1時間59分。回復に充てる。
3/29 (日) 68.6 24.2 71.7 64 数値が再び押し戻される。
3/30 (月) 68.2 23.5 72.4 57 平均141W / 平均速度40.5km/h
3/31 (火) 68.2 23.5 72.4 58 最終計測:68kgの壁を越えられず。

ご覧の通りだ。
1日2000kcalという厳格な食事制限を課し、三本ローラーの上で心臓を突き上げるような150Wを維持し続けた。第4回で書いた「エンジンの覚醒」は嘘ではない。安静時心拍は下がり、出力は確実に向上している。

項目 3月2日(開始時) 3月30日(現在) 変動
体重 68.6kg 68.2kg -0.4kg
体脂肪率 23.6% 23.5% -0.1%
筋肉量 49.6kg 49.4kg -0.2kg
安静時心拍 60bpm 57bpm -3bpm
平均出力 119W 141W +22W

しかし、肝心の「体重」は、誤差の範囲で停滞している。科学的なダイエット理論に基づけば、マイナス2kgは硬いはずだった。だが、52歳の肉体という「経年劣化」を起こしたシャーシは、最新の計算式をあざ笑うかのように、68kgという数値を死守している。休息日の今朝、体重計の針は昨日よりわずかに右へ振れている。
31日間、自分を弾圧し、数値を管理し、空腹というノイズを押し殺してきた結果がこれだ。科学は、私を裏切ったのではない。ただ、52歳の現実の前で、静かに沈黙したのだ。

■ 3本ローラーという名の「動かない疾走」
朝のガレージで、私は3本ローラーを見つめている。この機材は、実に不思議な乗り物だ。時速40km、あるいは50kmでタイヤを高速回転させ、汗を滴らせ、心拍を限界まで追い込んでも、現実には1mmも前に進んでいない。

全力でペダルを漕いでいるのに、景色はガレージの壁のままで、頬を打つ風も吹かない。ただタイヤの唸り音だけが響き、摩擦熱でタイヤのゴムが削れ、微細な塵となって床に積もっていく。ふと、気づいた。

「必死にペダルを回しているが、ただその場でタイヤが摩耗しているだけ」

かつては、この回転の先に「勝利」や「自己実現」というゴールがあると信じていた。

58kgまで自分を追い込み、安静時心拍は徐脈(50bpm以下)、218Wを叩き出していた8年前。あの頃の私は、数値を積み上げれば、いつか「自由」という名の地平線に辿り着けると錯覚していた。だが、今は違う。
どれほど速く回しても、私はこの場所から動けない。どれほど自分を削っても、かつての自分には戻れない。
この「一歩も進まない疾走」こそが、私が今直面している、誤魔化しようのない現実だった。

■ 人生は死ぬまでの暇つぶし

「生きることに、意味はない。」
3本ローラーの駆動音の中で、その言葉が唐突に、しかし、腑に落ちる感覚で降りてきた。
100日ダイエットに何の意味があるのか。65kgになることに、どんな価値があるのか。店を営み、自転車を直し、4月からの青切符に怯え、老いていくことに、一体どんな大層な理由が必要なのか。
答えは、無い。最初から、そんなものは存在しなかったのだ。

「人生は死ぬまでの暇つぶし」
この一言が、私の肺に溜まっていた「意味」という名の重苦しい澱(おり)を、一瞬で吹き飛ばした。
意味がないからこそ、私はこの31日間、狂気のような精密さで2000kcalを計量できたのだ。意味がないからこそ、毎日、体重計の上に誠実に乗り続けることができたのだ。
これは絶望ではない。「意味」という幻想から解放された、整備士としての究極の「開き直り」だ。

■ 101日目の朝へ:不自由を愛でる
明日から4月が始まる。ダイエットは第4セクションへ突入する。
世間は新生活や希望に満ちているかもしれないが、私はますます深くなる「不自由」の中へ潜っていく。
体重は減らず、街は青切符で縛られ、かつての「自由だった私」は、ますます遠い過去の記憶へと追いやられていく。
だが、それでいい。この動かない数値という「不自由」を噛み締めることで、私はかつての自分を、より鮮烈に、より正しく「懐かしむ」ことができる。
100日が終わる時、私はおそらく65kgにはなっていないだろう。MTBで山を駆けることも、もうないかもしれない。それでも、私は明日も3本ローラーに乗る。
どこにも辿り着かない、最高に贅沢で、最高に無意味な「暇つぶし」を完遂するために。

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