2026年10月「ツール・ド・九州」開催決定! 佐賀・唐津が抱える「経験不足」という名の挑戦状
ブリット野口です。
待望の国際大会!唐津の美しい景色が世界へ
2026年10月、国際自転車ロードレース大会「マイナビ ツール・ド・九州」が、ついに佐賀県に上陸します。舞台となるのは、玄界灘に面した美しい古都、唐津市。虹の松原や唐津城といった雄大な景観を背景に、世界のトップライダーたちが激走する姿は、想像するだけで胸が高鳴ります。この国際大会の誘致は、佐賀県、そして唐津市にとって、地域経済の活性化、観光客誘致、そしてシビックプライドの向上という、計り知れない恩恵をもたらすビッグチャンスです。しかし、その期待の裏側で、一つの大きな「課題」に直面しています。それは、大規模ロードレースの「受け入れ経験」の不足です。
2026年10月に自転車国際レース「ツール・ド・九州」唐津市で開催
「国民スポーツ大会でロードレース県外開催」が残した影
通常、大規模なスポーツイベントを国際大会へステップアップさせる上で、国民スポーツ大会(旧国体)は、その予行演習として非常に重要な役割を果たします。特に、ロードレースは、公道を封鎖して行うため、運営ノウハウの蓄積が欠かせません。しかし、2024年に開催された佐賀国民スポーツ大会において、自転車競技のロードレースが県外での開催となりました。この判断は、2026年の「ツール・ド・九州」という国際大会を唐津市で迎えるにあたり、残念ながら、大きな影を落としています。この「国民スポーツ大会での実地経験の欠如」が、ツール・ド・九州の受け入れ準備に与える影響は深刻です。
経験不足がもたらす3つの深刻な影響
1. 運営ノウハウの蓄積不足と安全管理への懸念
ロードレースは、数十キロに及ぶ広範囲なコースを設定し、その全域で交通規制をかけ、数時間にわたって選手の安全を確保しなければなりません。
➀交通規制計画の難易度
緻密な規制計画の策定、地元住民への周知徹底、そして当日の警察・警備・ボランティアとの連携は、机上の訓練だけでは習得できません。国民スポーツ大会という実戦の場で、交通渋滞や緊急事態への対応をシミュレーションし、課題を洗い出す機会を逸しました。
➁実地経験に基づくリスク管理の欠如
選手が高速で通過する公道での事故防止、観客の安全な観戦エリアの確保など、経験者しか気づかない「ヒヤリハット」のノウハウが、県内に十分に蓄積されていない可能性があります。
2. 専門人材・ボランティア育成の遅れ
大規模大会の運営は、行政職員やイベント運営会社だけでは成立しません。地域住民による献身的なボランティアの存在が不可欠です。
➀ボランティアのモチベーションと経験値
国民スポーツ大会という「地元のお祭り」で経験を積むことで、ボランティアは知識だけでなく、「シビックプライド」や「おもてなしの精神」を育てます。国民スポーツ大会での経験がない分、ツール・ド・九州に向けて、一から研修とモチベーションの醸成を行う必要があり、準備の負担が増大します。
➁専門職(審判・ディレクター)の育成機会の損失
ロードレース特有のルールや進行を熟知した地元スタッフを育てる絶好の機会を失い、大会成功のために外部からの専門人材に大きく頼らざるを得ない状況になる可能性があります。
3. 地域経済・連携体制の構築の遅れ
国際大会を地域全体の財産とするためには、観光・宿泊・飲食業界が一体となった受け入れ体制の構築が必要です。
➀観光インフラ整備の遅延
ロードレースファンは、大会後もコースを走りに来る「サイクルツーリスト」となる可能性が高いです。国民スポーツ大会を通じて、サイクリスト向けのインフラ整備(サイクルラック、修理拠点、宿泊施設の受入体制)への関心と投資を促すきっかけを逃しました。
➁地域連携の「熱」の不足
宿泊施設や飲食店が「いかにサイクリストを受け入れ、満足させるか」という意識を醸成するのも、実地開催の熱狂から生まれます。準備期間が短縮された状況下で、地域産業全体での「おもてなし」の準備を急ピッチで進める必要があります。
課題を乗り越えるための「攻めの準備」
<経験不足を強みに変える佐賀の戦略>
2026年「ツール・ド・九州」唐津ステージの成功に向け、佐賀県が直面する「ロードレースの実地経験不足」という課題は深刻です。しかし、既に佐賀県が始めている以下の施策は、この経験不足を補い、さらに大会後の持続的な地域活性化へとつなげる「攻めの準備」として機能しています。
1. 「経験不足」を「ノウハウ吸収」で凌駕する人材戦略
ロードレースの運営ノウハウがないという課題に対し、佐賀県は既に人的な受け皿を用意しています。
➀SSPプロジェクトによる外部知見の活用
国民スポーツ大会で佐賀県が採用した他県の自転車競技者を、SSPプロジェクト(SAGAスポーツピラミッド構想)の関係者として継続的に採用している点は非常に重要です。彼らは、単に競技経験者であるだけでなく、他県での競技大会の運営や、自転車を取り巻く環境整備の「リアルなノウハウ」を持つ貴重な人材です。この人材を組織の中核に据えることで、外部専門家への依存度を下げつつ、迅速かつ実効性のある運営体制を内部で構築することが可能になります。
2. 「イベント」で終わらせない!地域に根付くサイクルツーリズム
ツール・ド・九州は単なる「一日限りのイベント」ではなく、大会後に人々が地域を訪れるサイクルツーリズムのプラットフォームとなることが目的です。
➀「佐賀サイクリングクラブ」による広報活動の継続
観光課が主導する「佐賀サイクリングクラブ」というプラットフォームは、イベント開催とは別軸で、サイクリングを通じた地域の魅力発信を継続的に行っています。これにより、大会前から潜在的なサイクルツーリストを佐賀に呼び込み、地域での歓迎ムードを醸成できます。このクラブは、大会後のコース巡礼や日常的なサイクリングイベントの企画運営を通じて、地域住民を巻き込んだ「サイクリスト歓迎の文化」を根付かせる中核となります。
➁「ルートグランブルー」の徹底的なPR
コースとなるルートグランブルーの広報活動を進めることは、大会開催前から地域の景観を世界に発信することに他なりません。特に、唐津の海岸線や松原など、国際的な映像を通じて魅力が伝わる景観を強調することで、大会後の「走ってみたい」という動機付けを強力に行えます。
まとめ
<攻めの姿勢で、経験不足を佐賀の強みに>
佐賀県は、国民スポーツ大会でロードレースの実地経験がないというハンディキャップに対し、「国際大会後の未来」を見据えた戦略的な布石を既に打っています。
➀人材で課題をクリア
SSPプロジェクトを通じた専門人材の確保により、運営ノウハウ不足を解消する。
➁広報で機運を最大化
観光課とサイクリングクラブが連携し、大会前から地域の魅力を発信し、ボランティアや地域連携の「熱」を高める。
➂イベントを文化へ昇華
ルートグランブルーを旗印に、大会をサイクルツーリズム文化定着の起爆剤とする。
この「攻めの準備」は、単に大会を成功させるだけでなく、佐賀県、特に唐津市を、アジアを代表するサイクルツーリズムのデスティネーションへと変貌させる大きな力となるでしょう。あとは、この布石を最大限に活かすための、全県的な集中力と情熱をもって、2026年を迎え撃つのみです。
Tags: サイクルツーリズム