肥前狛犬を巡る旅「蕨野棚田」
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ブリット野口です。
「はじめに」
自転車で「肥前狛犬」を巡ることを「里山サイクリング」と呼んでいる。
「肥前狛犬」とは、佐賀、福岡、長崎で作られた狛犬の名称で、神殿の中に祀られていることが多い。また、小型で拝殿を向いて置かれているため、現在の唐獅子型の狛犬とは違う意味を持つと考えられているが、詳しいことはわかっていない。
小さな祠や神社に残されていることが多く、屋外に置かれているものは風化によって傷んでいる。また、盗難の被害も増えている。
小さな祠や神社は、地域住民が日々手を入れながら、地域資源として受け継いでいる。里山の暮らしに触れると、人と里と山の多面的な繋がりが見えてくる。
「サイクルツーリズムは地域との合意形成が大事」
地区の会議で説明をしたり、地域主催のイベントに出店をしたり、「サイクルツーリズム」を身近に感じてもらう活動を続けながら、地域住民とコミュニケーションを図ってきた。また、蕨野の地域おこし協力隊と関係を深められたことで調整が円滑に進んだ。
そして、ツアー造成から1年が経過し、蕨野は稲刈を終え、農閑期に入った。猛暑の影響を受け、秋の気配を感じられない里山でモニターツアーを開催した。
「標高130mの棚田交流広場から標高350mの大平展望台まで距離3km」
9名の参加者に肥前狛犬や里山の定義など、事前に情報を頭に入れてもらう。現場の説明だけでは理解力が低くなるので、今回から15分の解説を取り入れた。一般自転車と電動アシスト自転車の運動効率の違いも説明した。
<コースプロファイル>
距離:24km、走行時間:2時間、見学:1時間、ランチ:1時間、消費カロリー:500kcal
厳木町を起点に3か所の肥前狛犬を巡り、相知町の蕨野へ向かう。獅子城を右手に見ながら、浪瀬峠を越え、坂道を下り、蕨野の入口へ到着。
手打蕎麦と棚田米のおにぎりが美味しい「和らびの」でランチの後、蕨野の棚田を一望できる大平展望台までヒルクライム。
交流広場から展望台まで距離3㎞、高低差200m。電動アシスト自転車で一気に登る。
60代女性が足を付かずに20分で到着。初心者には厳しいヒルクライムではあるが、電動アシスト自転車だとギリギリ何とかなる。足を付かずに登り切った達成感と素晴らしい里山の風景がヒルクライムのご褒美。
電動アシスト自転車のメリットは体力差を補ってくれること。
一般自転車と比較すると電動アシスト自転車は消費エネルギーが20%少なく、体力を温存できるので、坂道で効果を発揮する。
展望台から蕨野の棚田を俯瞰で見学したあと、南川原にある日本一の高積の棚田へ向かう。この場所は道路が狭いため、観光の車両通行は禁止されているが、自転車通行が農作業の邪魔にならないことを地域住民に里山サイクリングで体験してもらい、農閑期のガイドツアーとして管理する事で合意を得ている。
「蕨野棚田の魅力は暗渠と石積」
棚田は全国各地に残っていて、佐賀県では6ヶ所の棚田が日本棚田百選に認定され、12ヶ所が指定棚田地域に指定されている。
蕨野の棚田は、棚田百選に選ばれ、その景観だけではなく、水利システムにも特徴が有り、多くの棚田にあるような上段の田んぼから溢れた水が下段の田んぼに落下していく「田越し」と呼ばれる配水方法が見られない。その代わり、田んぼの地下に設けられた石積の暗渠によって配水をしている。
田んぼへの送水方法は、大平地区の棚田の場合、用水は湧水や西側を流れる大平川に設けられた3ヶ所の石堰より取水され、それらの水は田んぼの地下を通る石積の暗渠によって下に流れていく。畦畔の石垣を良く見ると、ところどころに大きな横穴があり、中から水が流れ出ているのが分かる。これが上段の田んぼの地下を通ってきた暗渠の出口である。
その下に竪穴が開いており、流れ出た水はそのまま落ちていく。当然、このままでは田んぼに水が流れていかないので、水が必要な時は暗渠の出口にビニールパイプを突っ込み、パイプを通して田んぼに水を送る。また、田んぼへの取水口となる暗渠の出口と余剰水を流す下の竪穴の位置が接近しているので、上から流れてきた冷たい水が田んぼの水温を下げることなくそのまま下に流れていく。更に、大雨時に大平川が増水しても田んぼに必要以上の水が流れていかないので、田んぼの水を一定に保つことが出来る。
蕨野に石積の暗渠が造られた理由は、水路を暗渠にすることで、その分の面積も田んぼとして使用し、限られた土地から少しでも多くの収穫を得ようとする先人の思いと知恵によるものだ。そして、それを可能にしたのは、この地には石積の材料となる玄武岩があったからだ。
畦の法面は「野面積」の石積で築かれ、下から見上げると、まるで堂々とした山城の石垣のように見える。実際、山城の石垣を積む技術が用いられたと言われている。蕨野は獅子城から1㎞圏内にあり、獅子城の石垣積みの技術が伝わっている可能性は高い。
ちなみに蕨野には肥前狛犬も祀られていて、神社の階段は石積で作られている。
「最後に」
地元に残る肥前狛犬の価値を伝えるために始めた「肥前狛犬巡り」だったが、現在は「里山」と「サイクリング、ハンティング、トレッキング」を組み合わせた「唐津アドベンチャートラベル」に編集中である。
旅行客がほとんど訪れない唐津市南部をローカルガイドが独自の視点で案内する体験ツアーにニーズがあるとは思えないが、郷土の歴史や文化を調べることで地域住民と繋がり、郷土の魅力を探すことで「リスキリング(学び直し)」の機会を得ている。
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