第4話|10年通った厳木の里山で見えた「かすかな息切れ」|山は変わらない、私たちの「遊び方」が変わっただけ ~七山・鬼の鼻山・厳木をつなぐ20年の循環記~
山は変わらない、私たちの「遊び方」が変わっただけ ~七山・鬼の鼻山・厳木をつなぐ20年の循環記~
第4話|10年通った厳木の里山で見えた「かすかな息切れ」
同じ山に通い続けると、森の変化は見えてくるのか?

ブリット野口です。
マウンテンバイクで山を走り始めた頃、私たちにとって里山は「遊び場」でした。
七山でトレイルを作り、厳木へ活動の場所を広げ、鬼の鼻山では大会運営にも携わるようになりました。
山へ通う理由は、いつも「走るため」。
けれど、同じ場所へ何年も通い続けていると、以前は見えなかったものが少しずつ見えてきます。
今回の話は、速く走ることでも、新しいコースを作ることでもありません。
10年以上通った厳木の里山で感じた、小さな違和感についての記録です。
変わったのは山ではなく、私たちの見方だった
2015年から活動のフィールドを厳木へ広げました。最初は地形が面白く、古い作業道が残り、マウンテンバイクで走るには魅力的な場所でした。
しかし、年に何度も山へ入り、季節ごとの変化を見続けるうちに、走ること以外にも目が向くようになります。
以前は気にも留めなかった倒木。少しずつ密になっていく広葉樹。草木が伸びて狭くなる林道。イノシシが掘り返した地面。
そんな一つ一つの変化が、点ではなく線としてつながって見えるようになってきました。
もちろん、それだけで「山が悪くなった」と言いたいわけではありません。自然は常に変化しています。
だからこそ、私が伝えたいのは評価ではなく、「長く通ったからこそ気づけた事実」です。
「息切れ」という言葉がしっくりきた
当時は、その変化をうまく言葉にできませんでした。
木が増えている。道が荒れてきた。倒木が目立つ。そんな断片的な印象しかありませんでした。
今振り返ると、一番近い表現は「里山が少し息切れしている」という感覚です。誰かが悪いという話ではありません。
人口減少や高齢化、森林管理の担い手不足など、さまざまな背景がある中で、以前なら手が入っていた場所にも変化が現れてきたのだと思います。
だから、記事の中でも、行政や地域を批判するのではなく、「自分が何を見たか」を大切にしたいと考えています。
2023年、仲間が無言で集まった日
その思いを強くした出来事が、2023年の豪雨災害でした。
七山では土砂崩れが発生し、初期メンバーが所有する炭窯のある敷地にも大量の土砂が流れ込みました。
誰かが招集したわけではありません。気が付くと仲間が集まり、軽トラック3台と重機1台を使って、10人で土砂の撤去を始めていました。
あの日、改めて感じたことがあります。
BULLITT CYCLING CLUBは、ただ一緒に自転車で遊ぶ仲間ではなかったということです。
山で遊び、汗を流し、一緒に時間を積み重ねてきたからこそ、「困ったら助ける」が自然に行動になっていました。
言葉よりも先に体が動く。
それが20年近く一緒に活動してきた仲間の姿でした。
山は遊ぶ場所であり、暮らしの場所でもある
七山でトレイルを作っていた頃、私たちは山を「最高のプレイグラウンド」と考えていました。
その気持ちは今も変わりません。でも、山は遊び場であると同時に、誰かが暮らす場所でもあります。
炭を焼く人がいて、林道を管理する人がいて、森を守る人がいる。
そして、豪雨災害が起これば、その暮らしは直接影響を受けます。
マウンテンバイクをきっかけに山へ入り続けた私たちは、少しずつその現実も知るようになりました。
遊ぶだけでは見えなかった世界です。
20年前には想像もしなかったこと
2007年、自転車店を始めた頃、まさか将来、倒木を見ながら森の状態を考えたり、豪雨災害の復旧を手伝ったりするとは想像していませんでした。
それでも、振り返ると、すべては一本の線でつながっています。
自転車に乗ったから仲間と出会えた。
仲間がいたから山へ通い続けた。
通い続けたから変化に気づいた。
そして、気づいたから「この山でこれからも遊び続けるには何が必要なのだろう」と考えるようになりました。
その問いが、次の行動につながっていきます。
今回の気付き
山は、一年通っただけでは分からないことがあります。十年通って、ようやく気づく変化があります。
私たちが見たのは、劇的な変化ではありません。「少しずつ変わっていく里山」でした。
だからこそ、この記録には価値があると思っています。
一度きりの体験ではなく、長い時間をかけて積み重ねた一次情報だからです。
次回予告
里山の変化に気づいた私たちは、次に何を学ぶことを選んだのか。
「遊ぶ人」であり続けるために、「守る側」の技術を学び始めます。
次回、第5話「遊ぶために、守る側へ。仲間と取得した狩猟免許へ」へ続きます。
このシリーズを続けて読む
『山は変わらない、私たちの「遊び方」が変わっただけ』は、自転車店の活動から始まった20年間の記録です。
トレイルづくり、MTB大会、里山の変化、狩猟、炭焼き、ジビエ、そして「里山ラボ」へ。
ひとつひとつの出来事がどのようにつながり、現在の活動へ発展してきたのかを、全8話で時系列にまとめています。
第1話|なぜ自転車店を始めたのか
第2話|七山でトレイルをつくった理由
第3話|厳木へ広がったフィールド
第4話|山が発していたSOS
第5話|遊ぶ側から守る側へ
第6話|猟師の樫炭という挑戦
第7話|一皿に宿る里山の循環
第8話|里山ラボという答え
Tags: ブリットサイクリングクラブ