第1話|なぜ私は2007年に自転車店を始めたのか|山は変わらない、私たちの「遊び方」が変わっただけ ~七山・鬼の鼻山・厳木をつなぐ20年の循環記~
山は変わらない、私たちの「遊び方」が変わっただけ ~七山・鬼の鼻山・厳木をつなぐ20年の循環記~
第1話|なぜ、私は2007年に自転車店を始めたのか
自転車は、人生に「贅沢な時間」を与える道具になれるのか?

ブリット野口です。
2007年、私は佐賀市鍋島でスポーツバイク専門店「CYCLE SHOP BULLITT(サイクルショップブリット)」を開業しました。
今振り返ると、この店を始めたことが、その後の20年間を大きく変える最初の一歩でした。
当時の私は、自転車店を20年続けた先に、七山でトレイルを作り、厳木の森を歩き、鬼の鼻山で大会運営に携わり、狩猟や森林整備、炭焼き、そして、ジビエ料理へと活動が広がっていくとは想像もしていませんでした。
すべては、一台の自転車から始まった物語です。
オートバイから自転車へ
私はもともとオートバイ、特にオフロードやトライアル競技が好きでした。自然の中を走ることが好きで、二輪を操る感覚に夢中になっていました。
その後、自転車トライアルに興味を持ち、自転車の世界へ足を踏み入れます。自転車には、オートバイとは違う魅力がありました。
維持費が比較的安く、多くのレースに参加できる。音が静かで、保管場所にも困らない。そして何より、自分の脚でペダルを踏み、自然と向き合いながら進んでいく感覚が新鮮でした。
道具は変わりましたが、根底にあったのは同じでした。結局、私は二輪が好きだったのです。
自転車が人生を変えてくれた
自転車店を始める前の私は、仕事に追われる毎日を送っていました。車で職場へ向かい、仕事を終えて疲れて帰宅する。そんな日々の繰り返しです。
しかし、自転車に乗るようになって、生活の景色が少しずつ変わりました。
初めて100kmを走り切ったときの達成感。「やればできる」という自信。一人でペダルを漕ぎながら考え事を整理する時間。年齢も職業も違う人たちとの新しい出会い。
自転車は単なる移動手段ではなく、人生の楽しみ方そのものを教えてくれる道具でした。だからこそ、この楽しさを自分だけのものにしたくありませんでした。
「自転車を売る店」ではなく、「楽しみ方を伝える店」
2007年にBULLITTを開業した理由は、単純に自転車を販売したかったからではありません。
私が伝えたかったのは、スポーツバイクという文化でした。
自転車は、高価な趣味の道具でも、速く走るためだけの機材でもありません。暮らしを豊かにし、人と人をつなぎ、新しい景色を見せてくれる存在です。
私にとってスポーツバイクとは、「人生に贅沢な時間を与えてくれる道具」でした。
時間に追われる毎日の中で、自分のためだけに使える時間をつくる。風を感じながら走る。寄り道を楽しむ。知らない景色に出会う。
そんな時間こそ、本当の贅沢ではないかと思っています。
仲間が集まり始めた
店を始めると、自転車を通じて多くの仲間と出会いました。
速く走ることだけを目指す人もいれば、自然の中を楽しみたい人もいる。初心者もいれば、レース経験者もいる。
共通していたのは、「スポーツバイクを楽しみたい」という気持ちでした。
やがて、その仲間たちとBULLITT CYCLING CLUB(BCC)が生まれます。
私たちは走るだけでは満足しませんでした。もっと楽しく走れる場所はないだろうか。もっと安全に楽しめる環境は作れないだろうか。
そんな思いが、次の活動へつながっていきます。
当時は気づいていなかったこと
2007年の私は、まだ山を「遊ぶ場所」としか見ていませんでした。
自転車で走れるフィールドがあれば十分。それ以上のことは考えていなかったと思います。
しかし、この店を始めたことで仲間ができました。仲間ができたことで、新しいフィールドへ向かうようになりました。
そして、そのフィールドへ通い続けることで、山の見え方が少しずつ変わっていきます。
遊ぶことから始まった時間が、やがて「作る」「守る」「つなぐ」という活動へ変わっていくとは、このときはまだ知る由もありませんでした。
今だから見える原点
20年を振り返ると、BULLITTは自転車店であることに変わりはありません。けれど、その活動はいつの間にか、自転車だけでは語れなくなっていました。
七山でトレイルを作り、厳木で山を歩き、鬼の鼻山で大会を支え、狩猟や森林整備を学び、炭を焼き、ジビエを味わう。
どれも2007年には想像していなかったことです。それでも一本の線でつながっています。
その始まりは、「スポーツバイクの楽しさを伝えたい」という、とてもシンプルな思いでした。
今回の気付き
この20年間で変わったのは、山ではありません。変わったのは、私たちの山との付き合い方です。
遊ぶことから始まり、仲間とフィールドを作り、地域と関わり、自然を学び、次の世代へ知恵を残そうとする。
そのすべての原点が、2007年のBULLITT開業にありました。
次回予告
では、その仲間たちは最初にどこへ向かったのでしょうか。
答えは、佐賀県唐津市七山にある杉山でした。そこには、誰かが用意したコースではなく、自分たちの手で作る「遊び場」が待っていました。
遊び場は、誰かに用意してもらうものなのか?
次回、「第2話|2010年、七山の杉山から始まったトレイルづくり」へ続きます。
このシリーズを続けて読む
『山は変わらない、私たちの「遊び方」が変わっただけ』は、自転車店の活動から始まった20年間の記録です。
トレイルづくり、MTB大会、里山の変化、狩猟、炭焼き、ジビエ、そして「里山ラボ」へ。
ひとつひとつの出来事がどのようにつながり、現在の活動へ発展してきたのかを、全8話で時系列にまとめています。
第1話|なぜ自転車店を始めたのか
第2話|七山でトレイルをつくった理由
第3話|厳木へ広がったフィールド
第4話|山が発していたSOS
第5話|遊ぶ側から守る側へ
第6話|猟師の樫炭という挑戦
第7話|一皿に宿る里山の循環
第8話|里山ラボという答え
Tags: ブリットサイクリングクラブ