狩猟者のためのロープワーク講座① 一人猟で100kg級の獲物を動かす「3倍力システム」の基本原理

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狩猟者のためのロープワーク講座①
一人猟で100kg級の獲物を動かす「3倍力システム」の基本原理とは?

ブリット野口です。

狩猟において、山で獲物を仕留めた瞬間、多くの狩猟者が最初に直面するのは「どうやって運ぶか」という問題について紹介します。

シカやイノシシは、100kgを超えることも珍しくありません。平坦な場所なら数人で担ぐこともできますが、実際の猟場は急斜面や沢、倒木が点在する足場の悪い場所ばかりです。獲物を見つけることよりも、山から安全に搬出することの方が難しいと感じた経験がある方も多いでしょう。
私自身も、狩猟を始めた頃は「力があれば何とかなる」と考えていました。しかし、何度も山へ入るうちに、それが間違いだったことを痛感しました。山では、力よりも「仕組み」がものを言います。その代表が「3倍力システム(Zシステム)」です。

力ではなく、物理を味方につける
3倍力システムとは、ロープと滑車を組み合わせることで、自分が引く力を約3倍に変換するロープワークです。理論上は100kgの荷重に対して、およそ33kg程度の力で引くことができます。もちろん、実際には滑車やロープの摩擦があるため理論どおりにはいきませんが、それでも体への負担は大きく軽減されます。
この「少ない力で大きな仕事をする」という考え方は、昔から林業や山岳救助、レスキュー活動でも活用されてきました。狩猟もまた、自然の中で安全に作業する技術が求められる世界です。

なぜ一人猟ほど必要なのか
近年は単独で猟を行うハンターも増えています。一人猟の魅力は自由度の高さですが、その反面、搬出をすべて自分一人で行わなければなりません。
「あと一人いれば持ち上がるのに。」
そんな状況は山では日常茶飯事です。しかし、3倍力システムを覚えておけば、人手を待たなくても少しずつ確実に獲物を動かせます。
無理に持ち上げて腰を痛めたり、滑って転倒したりする危険も減らせます。狩猟では獲物を仕留める技術だけでなく、自分が無事に帰ることも同じくらい大切です。

3倍力システムの仕組み
構造は意外とシンプルです。必要になるのは、五つの道具です。
・アンカーポイント(支点)
・ロープ
・滑車(プーリー)
・カラビナ
・プルージックコード
これらを組み合わせることで、ロープを「Z」の形に配置します。この配置によって荷重が分散され、一人でも重い獲物を少しずつ動かせるようになります。
さらに、定滑車を追加すれば、自分が立つ位置を自由に選べるようになり、安全な姿勢で作業できます。急斜面では、この違いが疲労や安全性に大きく影響します。

大切なのは「一気に引かない」こと
倍力システムは魔法ではありません。一瞬で100kgを持ち上げる道具ではなく、「安全に少しずつ動かすための技術」です。焦って勢いよく引けば、ロープや滑車に大きな負荷がかかり、機材の破損や事故につながる可能性があります。一歩引き、荷重を確認しながら、少しずつ引く。この繰り返しこそが、山で安全に作業するための基本です。

ロープワークは山で生きる知恵
狩猟を続けていると、「力が強い人」が最後まで山へ通うわけではないことに気づきます。長く猟を続ける人ほど、無理をせず、道具を上手に使います。
ロープ一本、滑車一つで、状況を変えることができるのは、知識が力になるからです。山では筋力よりも知恵が自分を助けてくれます。
3倍力システムは、その知恵を形にしたロープワークと言えるでしょう。

次回予告
3倍力システムの心臓部ともいえるのが「プルージックノット」です。荷重がかかると止まり、荷重を抜くと滑るという不思議な性質を持つこの結び方は、安全な倍力システムを組むうえで欠かせません。次回は、プルージックノットの仕組みや結び方、現場で失敗しないためのポイントを詳しく解説します。

第1話: 一人猟で100kgを動かす「3倍力」の基本原理
第2話: 滑るのに止まる「プルージックノット」完全解説
第3話: 事故を防ぐ「アンカーポイント」の見極め方
第4話: 安全を最優先する狩猟ギア(ロープ・滑車等)の選び方
第5話: 一人猟で100kg級を事故なく引き揚げる実践テクニック
第6話: 倍力システムで失敗する5つの原因と直前の安全確認
第7話: ロープワークの本質=技術ではなく山で生きる知恵

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