データから読み解く、唐津市のイノシシ有害駆除【第3話】地域によって猪は違う。旧唐津・相知・厳木・七山から見える捕獲の特徴

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データから読み解く、唐津市のイノシシ有害駆除
【第3話】地域によって猪は違う。旧唐津・相知・厳木・七山から見える捕獲の特徴

ブリット野口です。

第一話では、唐津市全体で捕獲された2,176頭のイノシシを分析し、市全体の傾向をご紹介しました。
第二話では、箱わな・くくりわな・銃器という三つの猟具が、それぞれ異なる役割を担いながら鳥獣害対策を支えていることを見てきました。
では、その三つの猟具は、市内のどこでも同じように使われているのでしょうか。

一頭ごとの捕獲記録を地域別に分析すると、その答えは「いいえ」でした。同じ唐津市でも、地形や集落の立地、農地の広がりなどによって、捕獲方法には明確な違いがあります。
今回は、2,176頭の捕獲データから見えてきた「地域ごとの捕獲戦略」を読み解いていきます。

地域ごとに異なる猟具の構成

地区 箱わな くくりわな 銃器 合計 箱わな比率
旧唐津 548 124 26 698 78.5%
浜玉 151 15 0 166 91.0%
七山 139 3 19 161 86.3%
厳木 102 4 3 109 93.6%
相知 67 4 69 140 47.9%
北波多 101 9 6 116 87.1%
肥前 300 36 0 336 89.3%
鎮西 350 41 0 391 89.5%
呼子 53 6 0 59 89.8%
合計 1,811 242 123 2,176 83.2%

【表7】地域別・猟具別捕獲頭数

地域ごとに猟具の割合を比較すると、大きく異なることが分かります。
例えば、相知町では銃器による捕獲が約半数を占めています。一方で、厳木町では約94%が箱わなです。
旧唐津では三つの猟具が比較的バランスよく使われています。つまり、「唐津市の捕獲方法」は一つではありません。
地域ごとに、それぞれ異なる戦略が採られているのです。

旧唐津地区:あらゆる猟具を組み合わせる「総合型」

猟具 1〜20kg 21〜40kg 41〜60kg 61〜80kg 81〜100kg 101〜120kg 合計
箱わな 352 125 45 18 7 1 548
くくりわな 19 42 33 15 10 5 124
銃器 0 14 5 5 2 0 26
合計 371 181 83 38 19 6 698

【表8】旧唐津地区 猟具別・体重別捕獲頭数(総捕獲数698頭)

旧唐津地区は、市内で最も捕獲頭数が多い地域です。箱わな548頭、くくりわな124頭、銃器26頭。三つの猟具がすべて活用されています。また、小型個体から100kgを超える大型個体まで、幅広い体重帯の捕獲が確認されています。集落周辺から山林まで、多様な環境を抱える地域だからこそ、一つの猟具に頼るのではなく、状況に応じた柔軟な運用が行われていることがうかがえます。

相知町:銃器を積極的に活用する「機動型」

猟具 1〜20kg 21〜40kg 41〜60kg 61〜80kg 81〜100kg 101〜120kg 合計
箱わな 40 18 9 0 0 0 67
くくりわな 0 0 0 4 0 0 4
銃器 18 15 22 13 1 0 69
合計 58 33 31 17 1 0 140

【表9】相知町 猟具別・体重別捕獲頭数(総捕獲数140頭)

今回の分析で最も特徴的だったのが相知町です。箱わな67頭に対し、銃器は69頭。市全体では銃器の割合は約6%ですが、相知町では箱わなとほぼ同じ割合を占めています。また、41kg以上の中・大型個体の多くが銃器で捕獲されています。これは、箱わなでは対応しにくい個体に対し、銃器を積極的に活用していることを示しています。唐津市の中でも、非常に特徴的な捕獲スタイルと言えるでしょう。

厳木町:箱わなを軸にした「集落密着型」

猟具 1〜20kg 21〜40kg 41〜60kg 61〜80kg 81〜100kg 101〜120kg 合計
箱わな 50 41 10 1 0 0 102
くくりわな 1 1 2 0 0 0 4
銃器 0 1 1 1 0 0 3
合計 51 43 13 2 0 0 109

【表10】厳木町 猟具別・体重別捕獲頭数(総捕獲数109頭)

厳木町では109頭のうち102頭が箱わなによる捕獲でした。割合にすると約94%です。また、40kg以下の個体が大半を占めています。
これは、集落周辺で幼獣や若齢個体を効率よく捕獲し、個体数そのものを抑える運用が中心になっていることを示しています。もちろん、大型個体が現れた際には、くくりわなや銃器も補完的に活用されています。しかし、地域全体としては箱わなを中心とした対策が特徴です。

七山地区:山岳地形に対応する捕獲

猟具 1〜20kg 21〜40kg 41〜60kg 61〜80kg 81〜100kg 101〜120kg 合計
箱わな 86 15 27 8 3 0 139
くくりわな 0 0 3 0 0 0 3
銃器 8 11 0 0 0 0 19
合計 94 26 30 8 3 0 161

【表11】七山地区 猟具別・体重別捕獲頭数(総捕獲数161頭)

七山地区では、箱わなが主体でありながら、銃器による捕獲も一定数確認されています。また、市内でも比較的大型個体の割合が高い地域です。
急峻な山林が広がる地形では、平地と同じような捕獲方法だけでは十分ではありません。地形やイノシシの行動に合わせて、猟具を組み合わせていることがデータから見えてきます。

肥前・鎮西・浜玉・北波多・呼子
その他の地域にも、それぞれ特徴があります。肥前町や鎮西町では、箱わなによる小型個体の捕獲が中心となっています。浜玉町も箱わなが主体ですが、100kgを超える大型個体の捕獲記録も確認されています。北波多では、箱わなを基本としながら、くくりわなや銃器を補完的に活用しています。呼子では捕獲頭数は比較的少ないものの、地域の実情に応じた箱わな中心の運用が行われています。
捕獲頭数の多少だけではなく、「どの猟具を、どのように組み合わせているか」という視点で見ると、それぞれ異なる特徴があることが分かります。

「どこで捕まえたか」より、「どう守るか」
今回の分析で見えてきたのは、地域ごとに異なる捕獲戦略でした。地形が違えば、イノシシの行動も変わります。農地の広さが違えば、被害の出方も変わります。集落との距離が違えば、安全面への配慮も変わります。だからこそ、市内全域で同じ捕獲方法を採用するのではなく、それぞれの地域に合った方法が選ばれているのでしょう。
数字だけを見ると、「どこが一番捕獲したか」という比較になりがちです。しかし、本当に重要なのは、その地域に合った方法で地域の暮らしを守っているという点です。

まとめ
今回、2,176頭のイノシシ捕獲データを地域別に分析したことで、唐津市には一つの捕獲方法ではなく、地域ごとに異なる戦略が存在することが見えてきました。
箱わなを中心に個体数を抑える地域。銃器を積極的に活用して大型個体へ対応する地域。三つの猟具を柔軟に組み合わせる地域。
その違いは、優劣ではありません。地域の地形や暮らし、被害の状況に合わせて選ばれた結果です。
第一話では市全体の傾向を、第二話では猟具ごとの役割を、そして、第三話では地域ごとの戦略を見てきました。
2,176頭という数字は、単なる捕獲実績ではありません。その一頭一頭の記録を積み重ねることで見えてきたのは、地域を知り、イノシシを知り、最適な方法を選び続けてきた現場の経験と技術でした。データを読み解くことで見えてくるのは、鳥獣害対策の成果だけではなく、地域の暮らしを支える人たちの知恵そのものなのかもしれません。

今回の分析は、令和7年度(11月〜6月)の捕獲データを対象としたものです。しかし、近年は豚熱(CSF)の発生などによって、地域ごとの捕獲状況も変化しています。こうした感染症が捕獲戦略にどのような影響を与えているのかについては、公開データや現場で得られた情報をもとに、別の記事で私なりの考察をまとめたいと思います。

シリーズ一覧|データから読み解く、唐津市のイノシシ有害駆除【全4話】
第1話 唐津市で捕獲されたイノシシ2,176頭を分析。まず見えてきた全体像
第2話 箱わな・くくりわな・銃器を比較。猟具ごとに見える捕獲戦略の違い
第3話 地域によって猪は違う。旧唐津・相知・厳木・七山から見える捕獲の特徴
第4話 データは「次の猪」を教えてくれる。厳木の猟師が2026年シーズンを予測する

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