「ツール・ド・九州2026佐賀」佐賀県・唐津市による「したたかな戦略」を考える【ツール・ド・九州2026検証③】

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ブリット野口です。

【本記事に関する注意書き】
本記事の内容は、福岡県および佐賀県が公表した「ツール・ド・九州」に関連する各仕様書の比較から導き出した独自の仮説である。
特定の企業や団体の内情を断定するものではなく、あくまで一専門家・地元事業者としての視点に基づいた私見であることをあらかじめご了承いただきたい。

3話【ツール・ド・九州2026佐賀】
佐賀県・唐津市の「したたかな戦略」を考える

私は佐賀市鍋島で小さな自転車店を営んでいる。仕事柄、サイクルツーリズムに関する情報を集めている。
2026年3月に公示された佐賀県の「ツール・ド・九州2026開催事業」の仕様書を読んでいて、少し気になったことがある。
佐賀県と唐津市は、サイクルツーリズムをゼロから作ろうとしているようには見えない。すでに他地域で行われている仕組みや、県内で進めてきた事業を組み合わせ、大きなイベントの中に落とし込もうとしている。私はこれを、茶道や武道でいう「守破離」に近い考え方ではないかと思った。
先行事例を学ぶ「守」。既存のものを組み合わせて使い方を変える「破」。最後に、その地域ならではの形にしていく「離」。
今回の佐賀・唐津の取り組みは、まだ「離」の途中なのかもしれない。

1.まずは先行地域の「型」を使う
サイクルツーリズムは、自転車のコースだけを作れば成立するものではない。ルート、交通、レンタサイクル、宿泊、飲食、ガイド、情報発信など、いくつもの要素が必要になる。先行地域は、これらを何年もかけて試している。福岡や熊本など、すでにサイクルツーリズムの取り組みを進めてきた地域がある。後から始める地域が、同じ試行錯誤を一から繰り返す必要はない。成功事例を参考にして、使える部分を取り入れる。これは後発地域にとって、ごく自然な方法だと思う。
「オリジナルでなければならない」と考えるより、まずは実績のある型を使ってみる。今回の佐賀県の取り組みには、その姿勢が見える。「守破離」でいえば、最初の「守」にあたる部分だ。

2.コンベンションチームが事業を担当する意味
今回の事業で興味深いのが、事業主管が「コンベンションチーム」であることだ。サイクルツーリズムというと、観光やスポーツの部署が中心になりそうに思う。ところが、今回は、大規模な集客イベントとして扱うことができる。
佐賀県は「SAGA2024 国スポ・全障スポ」などを経験している。大規模イベントを開催するための組織運営や関係者との調整について、すでに経験がある。新しい事業を始めるたびに、新しい仕組みを作る必要はない。
過去の経験を別の分野に使う。ここにも、後発地域ならではの合理性がある。地元だけで人材を育て、ノウハウを蓄積する方法もある。しかし、時間はかかる。
今回のように開催時期が決まった大きなイベントでは、外部の専門家や事業者を使うほうが進めやすい場面もある。地元で人を育てることと、外部の力を借りること。どちらか一方ではなく、目的に応じて使い分けているように見える。

3.唐津市は県の事業をどう使うのか
唐津市側の動きも面白い。県が「ツール・ド・九州」という大きなイベントを開催する。唐津市にとっては、普段なら自分たちで用意しなければならない情報発信の機会が生まれる。そこに、唐津市がすでに持っている観光資源や交通手段を組み合わせる。
私はこれを「便乗」と表現しているが、悪い意味ではない。自治体同士が同じ地域で別々に予算を使うより、一つの大きな事業に既存の施策を組み込んだほうが効率がいい。県のイベントを唐津市のPRにも利用する。唐津市の取り組みを県のイベントのコンテンツとして利用する。双方にメリットがある。行政の仕事では、このような「乗り合わせ」が意外と重要なのだと思う。

4.チャリチャリをどう活用するか
呼子に導入されるシェアサイクル「チャリチャリ」も、その一例だろう。
唐津市が進めてきた施策を、ツール・ド・九州という大きなイベントと組み合わせる。シェアサイクルは、ロードバイクに乗る本格的なサイクリストだけを対象にしたものではない。
観光地を移動したい人。短い距離を自転車で走ってみたい人。自転車を持っていない旅行者。こうした人たちも利用できる。
一方、本格的なサイクリストには「ルート・グランブルー」のようなサイクリングルートがある。
自転車を持っている人と、現地で自転車を借りる人。スポーツとして走る人と、観光として楽しむ人。同じ「自転車観光」でも、必要なものは違う。
それぞれに入口を用意する考え方は、サイクルツーリズムを広げるうえで重要だと思う。

5.交通も地域の仕組みの一つになる
唐津スタート、福岡ゴールという今回の展開を考えると、交通も重要になる。自転車で走る区間だけでなく、スタート地点までどう行くのか。ゴール後にどう戻るのか。自転車をどう運ぶのか。参加者が地域を移動するには、こうした仕組みが必要になる。福岡側には西鉄、唐津側には昭和バスがある。大きなイベントをきっかけに、地域の交通事業者が関わる。
これはサイクルイベントそのものとは別のところで、地域に残る仕組みになる可能性がある。サイクルツーリズムは、自転車だけの話ではない。宿泊、飲食、交通など、周辺の産業とつながって初めて地域観光になる。

6.「守破離」で考えると、まだ途中にある
今回の取り組みを「守破離」で整理すると、分かりやすい。
は、先行地域の成功事例を学ぶこと。まずは完成している仕組みを使ってみる。
は、それを佐賀や唐津の既存施策と組み合わせること。県のイベントに、唐津市の観光資源やシェアサイクル、既存のサイクリングルートなどを接続する。
は、唐津独自のものを作れるかどうかになる。ツール・ド・九州が終わった後も、サイクリストが唐津を訪れるのか。もう一度走りに来る人が出てくるのか。宿泊や飲食につながるのか。地元のショップやガイドなど、新しい仕事につながるのか。そこまで育って、初めて唐津のサイクルツーリズムになる。

7.初手はコピーでもいい
自転車店を営んでいると、「他の地域ではこうやっている」という話をよく聞く。そこで思うのは、最初から独自性を求めすぎなくてもいいということだ。自転車だって同じだ。まず乗ってみる。走ってみる。うまくいかなければ修正する。その繰り返しの中で、自分たちに合った乗り方が見えてくる。地域づくりも似ているのではないだろうか。
最初から「唐津だけの特別なもの」を作ろうとするより、先行地域の事例を参考にする。使えるものは使う。そこに唐津の資源を組み合わせる。最後に、唐津でしかできない形へ変えていく。
だから私は、「初手はコピー、二手目は便乗、三手目で自分の資産に変える」くらいでいいと思っている。大切なのは、コピーしたままで終わらないことだ。

8.ツール・ド・九州2026の後に残るもの
イベントは一日で終わる。サイクルツーリズムは、その後が長い。2026年のツール・ド・九州をきっかけに、唐津・呼子を知る人が増える。その人たちが、数か月後にもう一度訪れる。自分の自転車を持って走りに来る。家族と観光に来る。宿泊する。地元の店で食事をする。ガイドツアーに参加する。そんな流れが少しずつ生まれれば、イベントの意味も変わってくる。県の事業として始まったものが、唐津の地域資源として残っていく。それが「離」なのだと思う。
今回のツール・ド・九州2026が、唐津にとって単発のイベントになるのか。それとも、これからのサイクルツーリズムにつながるきっかけになるのか。自転車店主として、しばらくその変化を見ていきたい。

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