第8話|里山ラボという答え|山は変わらない。変わったのは、私たちの「遊び方」が変わっただけ~七山・鬼の鼻山・厳木をつなぐ20年の循環記~
山は変わらない、私たちの「遊び方」が変わっただけ ~七山・鬼の鼻山・厳木をつなぐ20年の循環記~
第8話|里山ラボという答え
この遊び方は未来へ残せるのか?

ブリット野口です。
2007年に自転車店を始めてから、気がつけば20年近くが経とうとしています。最初から、こんなところまで来るつもりだったわけではありません。
自転車が好きだった。山を走るのが楽しかった。仲間と一緒にトレイルを作るのが面白かった。それだけでした。
七山へ通い、土を削り、倒木を処理し、MTBで走る。厳木へ活動の場所を広げ、鬼の鼻山では大会を運営する側にもなった。
自分たちが走るだけではなく、誰かが安全に走れるようにコースを整える。そうして、山と関わる時間が増えるにつれて、少しずつ見えるものが変わっていきました。
「遊ぶ」だけでは、山のことは分からない
10年、20年と同じ山に通っていると、以前は気にもしなかったものが目に入ってきます。
倒木。伸びた草。変わっていく林道。イノシシが掘り返した地面。森の中の小さな変化。以前なら、走るために邪魔になるものしか見ていなかったかもしれません。
でも、山を走り続けるうちに、「これは、なぜこうなっているんだろう?」と考えるようになりました。
そこから先は、自転車だけでは分かりません。狩猟を学び、樹木のことを教えてもらい、チェーンソーを扱う人から技術を学び、土木の仕事をする仲間から重機や災害復旧の現場を教えてもらう。そして、炭焼きにも関わるようになりました。気がつけば、最初は「遊び場」だった山が、少しずつ違う場所に見えるようになっていました。
遊びは、いつの間にか循環になっていた
七山でトレイルを作ったこと。
厳木で山を走ったこと。
鬼の鼻山で大会を開催したこと。
狩猟を始めたこと。
森林整備を学んだこと。
炭焼きを始めたこと。
厳木の樫を炭にしたこと。
その炭でジビエを焼いたこと。
振り返ってみると、全部が別々の活動だったわけではありません。
「もっと山で遊びたい」という最初の気持ちから、すべてがつながっていました。
遊ぶ。作る。迎える。気づく。守る。獲る。炭にする。食べる。そして、また山へ戻る。
いつの間にか、そんな循環になっていました。
「猟師の樫炭」が教えてくれたこと
その象徴が、「猟師の樫炭」です。
厳木の雑木林から樫を出す。
それを七山の炭窯で炭にする。
その樫は、山でドングリを実らせる。
ドングリはイノシシの食べ物にもなる。
そして、私たちは狩猟を学び、ジビエとして命をいただく。
最後は、その樫から作った炭で肉を焼く。
もちろん、これを「完璧な循環」と呼ぶつもりはありません。
炭焼きだって失敗します。上は灰になり、下は生木のまま。歩留まり0%ということもありました。
でも、その失敗から次の仮説が生まれます。
なぜ失敗したのか。次はどうするのか。また、試してみる。その繰り返しです。
考えてみれば、これも20年間やってきたことと同じでした。
20年前と、やっていることは変わらない
MTBでトレイルを走っていた頃も「もっと面白くするにはどうしたらいいだろう?」と考えていました。
トレイルを作るときも「どうすれば安全に走れるだろう?」と考えました。
大会を運営するときも「どうすれば参加する人が楽しめるだろう?」と考えました。
山の変化に気づいてからは、「この山でこれからも遊ぶには、何を知ればいいんだろう?」と考えるようになりました。
そして今は、「この経験を、次の人にどう渡せるだろう?」と考えています。
やっていることは変わったように見えても、根っこにあるものは、たぶん同じです。
「知らないことを知りたい。やったことのないことを試したい。仲間と一緒に、面白いことをやってみたい。」
それだけなのだと思います。
BULLITT SATOYAMA LABを始める
これから始めようとしているのが、BULLITT SATOYAMA LABです。
20年間の経験を、単なる思い出にしたくはありません。
自転車、MTB、トレイル、狩猟、ロープワーク、森林整備、炭焼き、ジビエ、自然観察。そして、山で考えること。
これまで自分たちが経験してきたことを、もう一度フィールドに持ち出してみる。そこで参加する人と一緒に問いを立て、実際にやってみる。
うまくいかなければ、その失敗も記録する。分からなければ、また調べる。そして、次の仮説を立てる。
それが、私たちの考える「里山ラボ」です。
観光地のように完成された場所を見せるのではありません。
今も変化している山の中で、自分で見て、自分で考えて、自分で試してみる。そのための場所です。
山は、これからも変わらない
20年前に見ていた山と、今見ている山は、同じ山です。もちろん、木も育つ。道も変わる。人の暮らしも変わる。
私たち自身も変わりました。でも、山はそこにあります。これからも私たちは山に入っていくでしょう。
MTBを持って入る日もある。ナイフを持って入る日もある。野帳と鉛筆を持って歩く日もある。炭窯に火を入れる日もある。
ただ歩いて、何もせずに帰る日だってあるかもしれません。
大切なのは、山を「消費する場所」にしないこと。そこにあるものを見て、知って、使わせてもらい、また次へ、つないでいくこと。
20年間を振り返って、今はそんなことを考えています。
私たちの遊び方は、これからも変わる
この20年の記録を振り返ってみて、ひとつ分かったことがあります。「遊ぶこと」には、終わりがないということです。
自転車から始まって、トレイルへ。
トレイルから地域へ。
地域から山そのものへ。
山から狩猟へ。
狩猟から炭焼きへ。
炭焼きからジビエへ。
そして、その経験を次の人へ。
これから先もまた違う遊び方が生まれるはずです。だから、この活動もここで終わりではありません。20年間の記録は、これから始まる「里山ラボ」の基礎資料です。そして、次の10年をかけて、また新しい記録が積み重なっていくはずです。
山は変わらない。変わったのは、私たちの「遊び方」だけ。この遊び方を未来へ残せるのか?
この問いを確かめるために私たちの「里山ラボ」は始まります。
このシリーズを続けて読む
『山は変わらない、私たちの「遊び方」が変わっただけ』は、自転車店の活動から始まった20年間の記録です。
トレイルづくり、MTB大会、里山の変化、狩猟、炭焼き、ジビエ、そして「里山ラボ」へ。
ひとつひとつの出来事がどのようにつながり、現在の活動へ発展してきたのかを、全8話で時系列にまとめています。
第1話|なぜ自転車店を始めたのか
第2話|七山でトレイルをつくった理由
第3話|厳木へ広がったフィールド
第4話|山が発していたSOS
第5話|遊ぶ側から守る側へ
第6話|猟師の樫炭という挑戦
第7話|一皿に宿る里山の循環
第8話|里山ラボという答え
Tags: ブリットサイクリングクラブ