【里山ラボ回顧録】自宅にパンプトラックを自作して10年。土と向き合った私の実証実験レポート⑥
最終話:【総括・土が良い理由】
10年目の結論。コンクリートを選ばなかったからこそ得られた、可変性と持続可能性とは?
ブリット野口です。
【パンプトラック10年の記録・全6話リンク】
この10年間の実験の全容は、以下の各リンクからご覧いただけます。
第1話:【仮説と設計】
第2話:【下地・暗渠排水】
第3話:【路面硬化・三和土】
第4話:【植生・10年生存競争】
第5話:【ライフステージの変化・ドッグラン兼用へ】
最終話:【総括・土が良い理由】
10年間の「実験データ」が証明したもの
庭を掘り返したあの日から、数え切れないほどの雨が降り、季節が巡り、10年の歳月が流れた。
ダウンヒルレースの練習場として産声を上げ、暗渠排水による水文学的アプローチ、三和土(たたき)による材料工学的なアプローチ、群雄割拠を制した野芝の8割支配という生態学的サバイバルを経て、我が庭のパンプトラックは愛犬が駆け回る立体ドッグランへとその姿を変えた。
この10年間、私が里山ラボというフィールドで行ってきたのは、単なる「大人の土遊び」や「庭のDIY」ではない。自然という、人間の思い通りにならない巨大なシステムを相手にした、「持続可能なローメンテナンス・インフラの構築実験」だった。
この10年におよぶ長期実証実験の回顧録を締めくくるにあたり、私は一つの確固たる結論に達している。
それは、「最初の設計段階で、コンクリートやアスファルトといった近代資材を選ばず、あえて『土』という可変性素材を選び抜いたこと。それこそが、このプロジェクトを大成功に導いた唯一絶対の正解だった」ということだ。
コンクリートの「不可逆性」と、土の「可変性」
現代の都市開発や住宅整備において、パンプトラックやドッグランを作るとなれば、アスファルトやウッドチップが主流だ。そして、フェンスを張り巡らせるのが手っ取り早い最適解とされる。確かに、完成直後のメンテナンスフリーさだけで言えば、近代資材の右に出るものはない。
しかし、近代資材には致命的な弱点がある。それは「不可逆性(やり直しが効かないこと)」だ。
一度コンクリートで固めてしまった土地は、人間のライフステージの変化(例えば、レースを引退した、犬を迎えた、あるいは年齢を重ねて別の用途に庭を使いたくなった)に対して、驚くほど頑固で、冷淡だ。形を変えるには、莫大な費用を払って重機を呼び、インフラを「破壊」して産業廃棄物を出すしか道はない。
一方で、私が10年間付き合い続けた「土」はどうだろうか。
土は、徹底的に「可変(フレキシブル)」だった。MTBのトラクションで削られると、消石灰を混ぜて叩けば、すぐに元通りになる。犬の爪でハゲそうになれば、野芝が自らランナーを伸ばして地表を修復する。もし、明日、私が「このパンプトラックをすべて平らにして、全面を自然豊かな菜園に変えよう」と思い立ったなら、スコップ一本で造形を崩し、いつでも元の自然(土)へと還すことができるのだ。
人間の都合に合わせて形を変え、役目を終えれば環境に負荷をかけることなく自然のサイクルへと還っていく。この「柔軟性」こそが、これからの時代に求められる本当の意味での「持続可能なインフラ」の姿の教訓ではないだろうか。
里山ライフスタイル:土と対話する豊かさ
この10年間の観察と実証実験が私に与えてくれた最も大きな資産は、完成したコースそのものではない。土の声を聴き、雨水の流れを読み、植物の生存競争を特等席で観察し続けた、その「プロセス(体験)」そのものだ。
手作業で土木工学や生態学の理論を実践し、失敗し、仮説を修正していく。この知的な試行錯誤の連続こそが、人間本来の五感を刺激し、日々の生活を信じられないほど豊かにしてくれた。
便利で平坦な「都会暮らし」を送る人々が、「里山」というキーワードに惹かれ、不便さの残るフィールドへと足を運ぶ理由もここにあるはずだ。すべてが予測可能でデジタル化された都市空間の中では決して得られない、「10年単位のリアルなフィードバックと、自然との対話」がここにはある。
我が庭のパンプトラック実験は、一応の完結を迎えた。
しかし、里山ラボの挑戦が終わるわけではない。10年かけて土と植物が調和したこの庭は、これからも我が家のライフステージの変化に合わせて、ある時は犬たちの楽園として、またある時は大人の思索の場として、その形を柔軟に変えながら生き続けていくだろう。
もし、あなたの家の庭に、まだ使われていない平坦な土のスペースがあるなら、ぜひ、スコップを突き立ててみてほしい。
近代的な資材で固めてしまう前に、土という最強の可変性資材を使って、あなただけの「10年計画の実証実験」を始めてみてはいかがだろうか。
そこには、園芸書やネットの検索画面をいくら叩いても出てこない、あなただけの「一次情報」という宝物が眠っているはずだ。
(パンプトラック10年の記録・完結)
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