【里山ラボ回顧録】自宅にパンプトラックを自作して10年。土と向き合った私の実証実験レポート⑤

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第5話:【ライフステージの変化・ドッグラン兼用へ】
ストイックな練習場から、愛犬が躍動する「立体ドッグラン」へ適応した環境とは?

ブリット野口です。

【パンプトラック10年の記録・全6話リンク】
この10年間の実験の全容は、以下の各リンクからご覧いただけます。
第1話:【仮説と設計】
第2話:【下地・暗渠排水】
第3話:【路面硬化・三和土】
第4話:【植生・10年生存競争】
第5話:【ライフステージの変化・ドッグラン兼用へ】
最終話:【総括・土が良い理由】

ライダーの聖地から、生命が躍動する庭へ
庭を掘り返し、暗渠排水を埋め、三和土(たたき)を突き固め、野芝の定着を見届ける。ダウンヒルレースのコンマ数秒を削るために始まった我が庭のパンプトラック実験は、数年をかけて一つの完成形へと至った。ノーブレーキでのコーナー進入、プッシュ&プルのリズミカルな連動は、仮説通り、私の身体へ完全に刷り込まれ、無意識の技術として血肉化していった。

しかし、10年という歳月は、私自身のライフステージにも確実な変化をもたらした。毎週末のようにレースへ遠征していたストイックな日々から、少しずつ生活の重心が変わり、新しい愛犬を迎えることになった。ここで、里山ラボは新たな「環境適応実験」のフェーズへと突入する。これまでマウンテンバイク(MTB)の激しいトラクションだけを受け止めてきたこの3次元のフィールドを、そのまま「ドッグラン」として兼用・転用できないかという試みである。

世の中の一般的な「DIYドッグラン」と言えば、平坦な土地にフェンスを巡らせ、芝生やウッドチップを敷き詰めたものが大半だ。しかし、我が家の庭には、10年かけて育て上げたバーム(斜面)とローラー(凸凹)、そして、敷地の8割を埋め尽くす強靭な野芝の絨毯がある。この「異形の庭」に犬を放ったとき、動物行動学的にどのような変化が起きるのか。
観察が始まった。

動物行動学的な大発見:犬は平坦よりも「3次元」を好む
愛犬をパンプトラックに放した瞬間、私は己の固定観念を激しく揺さぶられることになった。犬は平坦な直線を走るよりも、バームの斜面を駆け上がり、ローラーの凸凹をリズミカルに飛び越える「3次元の動き」に、明らかに異常な興奮と歓びを示したのだ。
考えてみれば、犬の祖先は山野を駆け巡る野生動物である。人工的に整地された平らなドッグランよりも、高低差とカーブが連続するパンプトラックの造形は、彼らの野生の闘争本能や「走る歓び」を強烈に刺激するようだった。

さらに、この立体的な構造は、犬の健康管理面(運動生態学)において予想外のメリットをもたらした。
平坦なドッグランで同じ距離を走るのに比べ、斜面を駆け上がり、凸凹で体幹を使うパンプトラックでのダッシュは、犬の筋肉(特に後ろ足と体幹)をバランスよく鍛える。短時間の運動でも非常に密度の高いエネルギー消費が行われ、愛犬のストレス解消と健康維持に最高の効果を発揮したのである。

踏圧(とうあつ)の分散:野芝×三和土のハイブリッドシステム
しかし、ドッグラン化にあたって懸念されたのが、犬の激しい「踏圧(とうあつ)」と爪による路面の破壊だった。
特に大型犬や活発な犬が全速力で急旋回すると、その鋭い爪は芝生を根こそぎ引きちぎり、通常の庭であればすぐに土が露出してハゲ山になってしまう。
ここで、第3話と第4話で実証した「三和土」と「野芝」のハイブリッド構造が、奇跡的な防御力を発揮した。
バームの頂点から斜面にかけては、10年間のサバイバルを勝ち抜いた強靭な「野芝」が網の目のように根を張っている。この野芝のマットが、犬の鋭い爪のインパクトを完璧に吸収し、土壌の流出を防いでいた。

一方で、犬たちが最も加速し、強いブレーキ(キック)をかける走行ラインのボトム(底)部分は、石灰と塩で突き固められた「三和土」のハード路面である。コンクリートほど硬すぎず、適度な衝撃吸収性を持つ三和土は、犬の足腰(肉球や関節)を痛めることなく、同時に爪によるえぐれを一切寄せ付けなかった。
かつて、マウンテンバイクのタイヤから路面を守るために設計した土木工学の結晶が、めぐりめぐって「犬の足腰を守り、ハゲない最強のドッグラン」として完璧に機能している。

自然の力を借りて作ったインフラは、人間の都合(用途変更)に対しても、驚くほど柔軟に適応してみせたのだ。緑のバームを弾丸のように駆け抜ける愛犬の姿を見ながら、私は「土」という素材が持つ真のポテンシャルに、深い畏敬の念を抱き始めていた。

(最終話:【総括・土が良い理由】へと続く)

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