【里山ラボ回顧録】自宅にパンプトラックを自作して10年。土と向き合った私の実証実験レポート④
第4話:【植生・10年生存競争】
無施肥、ローメンテナンス環境下におけるグランドカバーの遷移と野芝最強説とは?
ブリット野口です。
【パンプトラック10年の記録・全6話リンク】
この10年間の実験の全容は、以下の各リンクからご覧いただけます。
第1話:【仮説と設計】
第2話:【下地・暗渠排水】
第3話:【路面硬化・三和土】
第4話:【植生・10年生存競争】
第5話:【ライフステージの変化・ドッグラン兼用へ】
最終話:【総括・土が良い理由】
緑化大作戦:立体造形を巡る生態学実験
地下の暗渠排水で水はけを制し、地上の三和土(たたき)で強固な路面を手に入れた。しかし、3次元の造形を持つパンプトラックには、もう一つのアキレス腱が存在した。それは、バームやローラーを形成する傾斜地(法面)の崩壊リスクと、セクション内側の平面エリアの雑草対策である。
走行ライン以外の斜面は、放っておけば雨風で土壌が流出し、平面は、またたく間に雑草に覆われてコースの造形を狂わせてしまう。この課題を植物の力で解決するため、私はある「グリーンインフラ実験」を試みることにした。
ターゲットに選んだのは、以下の3種である。
①野芝(ノシバ): 根が強く土留めに適しているため、最も過酷な「バームの法面(斜面)」へ配置。
②クラピア: 圧倒的な成長スピードで地表を覆うため、セクションの「内側の平面エリア」へ配置。
③ディコンドラ: 緻密な緑の層を作るため、同じく「内側の平面エリア」の緑化を担当。
実験条件は極めてシンプル、かつ過酷に設定した。「肥料は一切与えない(無施肥)。たまの水やりと、草刈りのみ」。適地適所に配したはずの3つの植物が、10年の歳月を経て、どうエリアを奪い合い、どんな結末を迎えるのか。園芸書には絶対に載っていない、リアルなサバイバルレースがスタートした。
境界線の崩壊:内側の平面へ侵食する「在来種」の逆襲
実験初期、主役の座にいたのは間違いなく平面エリアのクラピアとディコンドラだった。特にクラピアは植栽してわずか数ヶ月で、まるで緑のじゅうたんを広げるように爆発的な勢いで地表を被覆していった。小さな可憐な花を咲かせ、コースの内側を美しく彩るその姿に、私は「完璧な住み分けができた」と満足していた。
しかし、3年が過ぎ、5年が経過した頃、私が引いたはずの境界線が足元から崩れ始めた。
肥料を一切与えないという飢餓状態が続くにつれ、あんなに旺盛だったクラピアやディコンドラの勢いに陰りが見え始めたのだ。そして、その隙を逃さなかったのが、法面(斜面)をがっちり守っていたはずの「野芝」だった。
野芝は、日本の気候風土に何千年も最適化されてきた在来種である。彼らにとって、肥料のない痩せた土地など日常茶飯事だったのだろう。法面で十分に根を張った野芝は、強靭な「匍匐茎(ランナー)」を触手のように伸ばし、斜面から平面へとジワジワと進軍を開始した。クラピアとディコンドラが形成していた緻密なはずの根網をすり抜け、内側の平面エリアを次々と自らのテリトリーへと塗り替えていったのだ。
10年目の結末:8割の支配と、草刈りという淘汰圧
そして、10年が経った現在、我が庭のパンプトラックの植生はどうなったか。
結論を言えば、平面エリアに植えたクラピアとディコンドラは完全に駆逐され、今やコース全体の「8割」が野芝によって完全に支配されている。
この実験から得られた考察は極めて深い。
無施肥という環境下において、外来の園芸品種は自力で栄養分を確保し、エリアを維持し続けることができなかった。一方で野芝は、過酷な斜面からスタートしたにもかかわらず、その圧倒的な生命力で平面の領土までをも飲み込んでしまった。
さらに、私が時折行う「草刈り」という行為そのものが、植物たちへの強力な「淘汰圧(選別の力)」として働いていたことも分かった。定期的に上部を刈り取られるストレスに対して、地中に強固な成長点を持つ野芝の回復力は群を抜いていた。ブログで紹介している私の草刈り動画のフィールドは、まさにこの「野芝が平面までをも巻き込んでサバイバルを勝ち抜いた、最もタフでリアルな生態観察記録」なのである。
当初は「適材適所」を狙って3種を混在させたが、10年というタイムスパンで見れば、自然は最も手のかからない「野芝の単一支配」という答えを私に提示してくれた。しかし、この「敷地の8割が強靭な天然芝(野芝)で覆われた」という実験結果は、里山ラボにさらなる予想外の展開をもたらすことになる。
ダウンヒルレースの練習場としてストイックに削り出された3次元の造形が、この広大な野芝の絨毯を纏った瞬間、全く別の生命を育む最高のフィールドへと変貌を遂げたのだ。
(第5話:【ライフステージの変化・ドッグラン兼用へ】へと続く)
Tags: パンプトラック