【里山ラボ回顧録】自宅にパンプトラックを自作して10年。土と向き合った私の実証実験レポート③

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第3話:【路面硬化・三和土】
重機なしで固める。伝統技法「たたき」の応用と可変性を残した3次元造形とは?

ブリット野口です。

【パンプトラック10年の記録・全6話リンク】
この10年間の実験の全容は、以下の各リンクからご覧いただけます。
第1話:【仮説と設計】
第2話:【下地・暗渠排水】
第3話:【路面硬化・三和土】
第4話:【植生・10年生存競争】
第5話:【ライフステージの変化・ドッグラン兼用へ】
最終話:【総括・土が良い理由】

「ただの土」が削られていく材料工学の課題
地下に張り巡らせた暗渠排水システムのおかげで、我が庭のパンプトラックは「雨の翌日でも走れる」という初期のインフラ条件をクリアした。しかし、次に立ちはだかったのは、マウンテンバイク(MTB)のタイヤが路面に牙をむく、材料工学的な耐久性の課題であった。
パンプトラックを走る際、ライダーは漕ぐ代わりに、体重を路面に強く押し付ける(プッシュ)。さらにコーナリング(バーム)では、時速20km/hを超えるスピードと遠心力が、細いブロックタイヤの接地コンタクトを通じて強烈なトラクションとして路面に突き刺さる。

ただ掘り返して成形しただけの「ただの土」では、この強大な局所的圧力に耐えられなかった。
走るたびにローラーの頂点は削れて平らになり、バームの斜面はタイヤによって掘り起こされて細かい砂埃へと変わっていく。ライディングの時間よりも、スコップで崩れた土を戻して固め直す「メンテナンス時間」の方が長くなっていくという、本末転倒な状況に陥った。

舗装(アスファルトやコンクリート)に逃げるのは簡単だ。しかし、それでは「ライフステージの変化に合わせて、いつでもスコップ一本で改装・補修、あるいは元の自然へ還せる」という「土の可変性」の仮説を放棄することになる。コンクリートの硬度を持ちながら、いつでも土に還せる魔法のような路面。その難解な数式を解く鍵は、日本の伝統土木技術である「三和土(たたき)」にあった。

土、石灰、塩:伝統のブレンドによる「半永久的」硬化実験
三和土とは、赤土などに消石灰と「にがり(塩化マグネシウム)」を混ぜ、何度も叩き固めることでコンクリートのように硬化させる日本古来の左官・土木技術だ。消石灰が土の中の成分や空気中の二酸化炭素と反応して結晶化(炭酸化)し、塩がその化学反応をコントロールしつつ水分を保つ。

私はこのメカニズムを現代のパンプトラックDIYに応用すべく、独自の配合比率による実証実験を開始した。
用意したのは、真砂土、ホームセンターで安価に手に入る消石灰、そして、凍結防止剤(塩化カルシウム)である。
理想の強度を導き出すため、まずは小さなバケツの中で複数のサンプルを調合し、乾燥後の硬度を確かめる「プレ実験」を繰り返した。行き着いた黄金比率は、真砂土をベースに、消石灰を全体の約30%、そして、凍結防止剤を少量、混ぜ込むというものだった。
この伝統のブレンドをバームの斜面やローラーの表面に厚さ数センチメートルにわたって敷き詰め、ここから本当の「大人の土遊び」であり、最大の肉体労働が始まった。

左官の技とタコ突き:10年後の摩耗レポート
三和土の強度を高めるための唯一絶対のルールは、「これでもか」というほど叩き潰すことだ。
地道に手作業で、タンパーとスコップを何度も何度も路面に振り下ろした。ドスン、ドスンと、自分の体重を乗せて土の隙間の空気を限界まで押し出していく。特に難易度が高かったのは、3次元の曲面を持つバームのR(曲率)部分だ。平面を叩くのとは違い、斜面に沿って滑らかなアールを維持しながら均一に圧力をかける必要がある。タンパーで大まかに突き固めた後は、丸太を加工した治具を使い、まるで職人が土壁を仕上げるように表面の肌を整えていった。手作業だからこそ、タイヤがどう通過するかを手のひらの感覚でシミュレーションしながら、微細な形状変化を路面に滑り込ませることができた。数日間の養生期間を経て、表面は完全に乾燥した。

恐る恐るマウンテンバイクで進入し、バームで強烈なプッシュを当ててみる。
タイヤが路面を捉えた瞬間、それまでの泥を掴むような鈍い音ではなく、アスファルトに近い硬質な音が響いた。ブロックタイヤが三和土の路面を力強くグリップし、えぐるようなトラクションをかけても、表面には一筋の傷すらつかない。重機や近代的な化学資材を使わずとも、伝統の知見と己の肉体だけで、MTBのパワーを受け止める強固な「セクション」が完成したのだ。

そして、現在、この三和土の路面は、驚くべきことに10年が経過した今もその大枠の造形を維持し続けている。もちろん、毎年の梅雨や犬たちの爪による微細な摩耗はある。だが、真の価値はその先にある。「少し削れたら、また土と石灰を混ぜて叩けば、完全に元通りになる」という、コンクリートには絶対に真似できない「無限の補修性」だ。

路面というハードウェアを完成させた里山ラボは、次に、この土の造形をコーティングし、周囲の環境と調和させる「植物の生態学実験」へと、そのステージを移していく。

(第4話:【植生・10年生存競争】へと続く)

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