【里山ラボ回顧録】自宅にパンプトラックを自作して10年。土と向き合った私の実証実験レポート②
第2話:【下地・暗渠排水】
最初の挫折。水文学(すいもんがく)のアプローチと手作業による地下排水システムとは?
ブリット野口です。
理想のコースが「泥の沼」に沈んだ日
完璧に計算されたローラーのピッチ、遠心力を受け止める美しい曲率(R)のバーム。20トン以上の真砂土を搬入し、スコップ一本で庭に描き出した3次元のコースが完成したとき、私は自分の手仕事に陶酔していた。マウンテンバイク(MTB)を引っ張り出し、テストライドを繰り返した。しかし、待っていたのは「自然」からの最初の手痛い洗礼だった。
梅雨に入り、雨が降った翌朝、私の目に飛び込んできたのは、理想のクローズドコースではなく、茶色い水をなみなみと湛えた「泥の沼」だった。バームの足元には巨大な水たまりができ、ローラーの谷間は底なしの泥濘(ぬかるみ)と化していた。水が引いた後も土は水分を含んでブヨブヨのままで、タイヤを乗せた瞬間に路面が深くえぐれ、走行どころかまともに立つことすらできない。
ここで私は、致命的な設計ミスに気づかされた。それまでの私は、地上に見える「土の造形」ばかりに気を取られ、地下を流れる「水流のコントロール(水文学的アプローチ)」を完全に看過していたのだ。
雨が降るたびに数日間も走れなくなるようでは、日常的な反復練習環境としての「仮説」は検証できない。泥の沼を前に、私は一度作ったコースをすべてリセットし、地下のインフラ、すなわち「暗渠排水(あんきょはいすい)」のDIYという、手作業での土木基礎実験へと舵を切ることを決意した。
スコップ一本で挑む、地下排水のルート設計
暗渠排水とは、地中に掘った溝に透水管(穴の空いたパイプ)を埋め込み、地上の余剰水分を効率よく地下から逃がすシステムのことだ。通常であればミニユンボなどの重機を使って掘り返す作業だが、私はあえてスコップとクワによる「手作業」にこだわった。自分の身体の力だけで土の層を感じ、傾斜をコントロールしたかったからだ。
実験における最大の課題は、「自然の重力にしたがって、いかにスムーズに水を誘導するか」である。
まず、コース内で最も水が溜まりやすいバームの内側やローラーの谷間を起点として、敷地外の排水口へと繋ぐ「幹線」と、そこへ流れ込む「支線」のルートを設計した。手作業での鬼門は、ここからの穴掘りと「水勾配(みずこうばい)」の計算だ。
深さ約30〜40cmの溝を掘り進めるのだが、ただ掘ればいいわけではない。1メートル進むごとに数センチメートルずつ確実に低くなるよう、正確な傾斜をつけなければ、水は途中で滞留してしまう。水平器をあてがい、時に水を少し流して流れ方を確認しながら、ミリ単位で溝の底を削り調整していった。粘土質の硬い地層にぶつかるたびにクワを振るい、手作業ならではの「土の抵抗」を全身で受け止める、過酷な肉体労働であった。
透水管と砕石:10年機能し続ける地下インフラの構築
溝を掘り終えたら、いよいよ地下排水システムの心臓部を構築する。
溝の底にまず、砕石を敷き詰め、その上に網目状の穴が空いた「暗渠排水管(ネトロンパイプ)」を配置する。このパイプが地下水のハイウェイとなる。しかし、ただパイプを置いて土を被せるだけでは、周囲の泥が穴に詰まって数年で機能不全を起こしてしまう。
ここで、10年先までメンテナンスフリーで機能させるためのフィルター層が必要になる。
パイプの周囲を粒度の揃った「砕石(小さめの石)」で隙間なく包み込み、さらに、その上に籾殻を敷き詰める。こうすることで、地上の雨水は土の層で大まかに濾過され、砕石の隙間を通って透明な水となり、透水管へと集約されていく。
最後に、本来のコースの土を埋め戻した。地上から見れば、そこにはただの「土のコース」が戻ってきただけのように見える。しかし、その地下には手作業で編み上げられた緻密な排水ネットワークが完成していた。
システムが完成した後、再び激しい雨が降った。翌朝、そこにあったのは、昨日までの泥の沼ではない。雨が止んで、わずか数時間しか経っていないというのに、コースの表面はすでに適度な湿り気を残すのみで、水たまりは一箇所も存在しなかった。
翌日には、マウンテンバイクのタイヤを乗せても、路面は一ミリもブレない。地下の暗渠排水が、完璧に機能した瞬間だった。
水はけという最大の障壁をクリアした私は、いよいよこのコースを「崩れないタフな路面」へと仕上げる、次なる材料工学の実験へと足を踏み入れることになる。
(第3話:【路面硬化・三和土】へと続く)
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