【里山ラボ・道具論】手になじんだ道具を長く使う。東多久「HARU CRAFT」で作った8つの革カバー
【里山ラボ・道具論】手になじんだ道具を長く使う。
東多久「HARU CRAFT」で作った8つの革カバー
ブリット野口です。
自転車屋をやっていると、古くなったから新しい自転車に交換するのではなく、消耗品を交換して使い続けるという場面にも遭遇します。もちろん、安全のために新品に替えなければならないこともありますが、悪くなったところを見つけて、部品を交換して、調整して、また乗れるようにすることも自転車屋の役割です。
長く乗っている自転車には、その自転車なりの癖があり、オーナーにも好みがあります。新品に交換すればすべて解決するわけではなく、今まで使ってきたものをどう残すか、どう直すかを考えることも多い仕事です。この感覚は、厳木の里山で使っている道具にも、そのままつながっています。

山へ入るときの鉈や鎌。トレイル整備で使う伸縮式レーキ。庭で薪を割るための小さな手斧。狩猟ナイフや包丁。そして、くくり罠の設置に使うピックマトック。
どれも新品のまま飾っておく道具ではありません。使えば傷がつくし、刃も鈍ります。必要になれば研ぐし、傷んだところがあれば手を入れる。できれば、そうやって長く使いたいと思っています。そんな道具に合わせて、東多久の革工房でカバーを作っています。既製品を買うのではなく、実際に使っている道具を持ち込んで、ひとつずつ形を考えてもらったワンオフの革カバーです。

MTBで山へ入ると、道具の運び方も考えるようになる
私がやっているトレイル整備は、毎回大人数で集まって一気に道を作るようなものではありません。普段はMTBで山へ入り、走りながら状態を見ています。前回来たときにはなかった枝が落ちていることもある。草が伸びて走りにくくなっている場所もある。雨のあとには土が流れたり、落ち葉が溜まったりします。気になるところがあればMTBを止めて、その場でできる範囲の手入れをする。鉈で枝を払う。鎌で草を刈る。折畳鋸で根を切る。路面を少し整えたいときは、伸縮式レーキを出す。倒木などでロープや滑車が必要になりそうな場所もあります。とはいえ、毎回すべての道具を持って行くわけではありません。前回走ったときの状態を思い出したり、今日、通るルートを考えたりしながら、その日に持って行くものを決めます。持って行ったけれど使わない日もあります。逆に、「これを持って来ておけばよかった」と思う日もあります。そういうことを何度も繰り返して、少しずつ今の装備になってきました。
里山ラボという名前を付けていますが、やっていることは案外単純です。
山へ行く。使ってみる。うまくいかなかったら、次に変える。その繰り返しです。
リュックに刃物を入れて山を走る
MTBで山を走る以上、道具の運び方は最初から考えておかなければなりません。舗装路とは違って、山の中ではリュックの中身もかなり動きます。鉈や鎌をそのまま放り込んでおくわけにはいきません。ほかの荷物を傷つけることもありますし、何より危ない。
数年かけて、道具を厳選し、革カバーを作ってもらったのは、手斧、鉈、鎌、狩猟ナイフ、包丁、伸縮式レーキ、ピックマトックの8つです。このうち、MTBでトレイル整備へ入るときにリュックで運ぶのは、主に鉈、鎌、伸縮式レーキです。必要に応じて、折畳鋸、ロープ、滑車も入れます。手斧は庭で薪を割るためのものですし、狩猟ナイフと包丁にはまた別の使う場所があります。用途は全部違います。それでも、どれも今使っているものを、これから先も使い続けたい。だから、カバーも、ただ刃先を隠せればいいというものではなく、道具に合わせたものが必要です。

既製品を探したけれど、少しずつ合わなかった
最初は市販品も探しました。ただ、道具はそれぞれ形が違います。「入ることは入るけれど、少し大きい」「刃先は隠れるけれど、ここが余る」そんな感じでした。
特に、鉈や鎌は、MTBでリュックに入れて運びます。単に収納できればいいわけではなく、リュックの中でどう収まるのか、取り出すときに引っかからないか、使い終わったあとにまたすぐ収められるか。実際の使い方まで考えると、既製品を無理に合わせるより、今使っている道具に合わせて作ってもらったほうが早いのではないかと思いました。

そこで、東多久の革工房へ。道具を実際に持ち込んで、「これはリュックに入れる」「この向きで刃を収めたい」「ここはできるだけ引っかからないようにしたい」と話しながら、ひとつずつ作ってもらいました。この時間は、なかなか面白かったです。普段は何気なく使っている道具でも、「どう使っているのか」と聞かれると改めて考えることになります。自転車の仕事も同じですが、使う人が違えば、使い方も少しずつ違います。だから、形だけ真似しても同じものにはならない。今回の革カバーも、そういうものになりました。

東多久で、道具を前にして作る
製作をお願いしているのは、東多久の「CRAFTING LEATHER HARU CRAFT & REPAIR」です。
完成品の中から選ぶのではなく、実際の道具を前にして、「これはどう使うのか」を話しながら作っていきました。
鉈なら刃をどこまで覆うのか。鎌ならどの向きで収めるのか。レーキのような特殊な形のものは、どこをカバーするのか。
一つとして同じではありません。私が普段の使い方を伝えて、それを職人さんが形にする。「こんな感じで」と話していたものが、実際に革ででき上がっていくのは面白いものです。完成したものを付けてみると、最初からその道具に付いていたような感じがします。ただ、革はまだ新しい。これから使っていけば、傷もつくし、色も変わります。その変化も楽しみです。

① 手斧|庭で薪を割るための小さな道具
カバーを作ってもらった手斧は、庭で薪を割るための小型の斧です。山へ持って行って大木を倒すようなものではありません。必要なときに出して、少し薪を割る。そんな使い方です。小さな道具ですが、何度も使っていると手になじんできます。重さも柄の長さも分かってくる。刃が鈍れば研ぐ。まだ、使えるなら、また使う。新しいものを買うのも悪くありませんが、今使っているものを手入れしながら使い続けるほうが、自分には合っています。革カバーも、これから一緒に傷がついていくでしょう。

② 鉈|MTBのリュックに入れる
鉈は、MTBで山へ入るときにリュックへ入れる道具です。伸びた枝を払う。少し藪に手を入れる。大掛かりな作業をするわけではありませんが、一本持っていると、その場でできることが増えます。ただ、リュックで運ぶなら、刃先をきちんと保護しなければなりません。山へ向かう途中も、山の中を走っているときも、リュックの中ではほかの道具と一緒になります。使うときに出して、終わったらまた収める。この当たり前の動作がスムーズにできるように、実際の使い方に合わせてカバーを作ってもらいました。

③ 鎌|山の状態は、すぐ変わる
鎌も、MTBでトレイル整備へ入るときにリュックに入れる道具です。草は、刈ったら終わりではありません。しばらくすると、また伸びます。前回来たときには問題なかった場所が、次に来ると走りにくくなっていることもあります。里山では、一度整備したら「完成」ということはあまりありません。状態を見ながら、必要なところだけ手を入れていく。鎌は、そのために何度も山へ持って行くことになる道具です。だから、使うときだけでなく、山まで安全に運べることも大事でした。

④ 狩猟ナイフ|使わないときの管理も大事
狩猟ナイフは、使う場面が限られている道具です。だからこそ、使わないときもきちんと管理しておきたいと思っています。刃を守る。不用意に抜けない。必要なときには、確実に使える。革のシースは、見た目だけのものではありません。道具を安全に扱い続けるための一部です。ナイフも使えば傷がつきますし、シースもこれから変わっていくと思います。それも含めて、長く使っていきます。

⑤ 包丁|今使っているものを、もう少し長く使う
包丁についても、新しいものを買う前に、今使っている一本にカバーを作ってもらいました。何度も使って、研いできた包丁です。使い慣れたものには、新品とは別の良さがあります。自転車もそうですが、新しいものに交換する前に、今あるものをもう一度見てみる。少し手を入れれば、まだ十分使えるものもあります。今回の包丁も、その延長です。カバーを付けたから性能が上がるわけではありません。ただ、安全に保管し、必要な場所へ持って行き、これからも使い続けるためには意味があります。

⑥ 伸縮式レーキ|山まで運べなければ使えない
伸縮式レーキは、MTBでのトレイル整備に使っています。落ち葉を寄せたり、土を少しならしたりする道具です。もっと大きなレーキを使えば、一度に広い範囲を作業できるかもしれません。ただ、私の場合は、そこまでどうやって持って行くのかという問題があります。MTBで走って、自分で背負って運ぶ。この条件があるので、山で使いやすいだけでは足りません。運べることも重要です。伸縮できるレーキは、その点で都合がいい。特殊な形をしているので、今回も実物に合わせて革カバーを作ってもらいました。実際にこれから山で使ってみて、「ここはこうしたほうがいい」ということが出てくるかもしれません。そのときは、また考えればいい。最初から完璧な答えを作るより、使いながら直していくほうが自分には合っています。

⑦ ピックマトック|くくり罠の設置で使う道具
ピックマトックは、片方が尖っていて、もう片方が平らになった、鍬のような形をしています。狩猟でくくり罠を設置するときに使っています。罠を仕掛ける場所では、地面の状態を見ながら土を掘ったり、根や小さな障害物を取り除いたりすることがあります。山の土は場所によって硬さが違います。根が張っていることもあります。そんなときに、ピックマトックがちょうどいい。尖った側で土を崩したり、平らな側で土を整えたりする。スコップほど大きくないので、山へ持って行くにも都合がいい。くくり罠の設置は、ただ地面を掘れば終わりというものではありません。獣道を見て、足跡などの痕跡を確認する。周囲の状況を見る。地面の状態を見る。そのうえで設置場所を決める。実際の山では、こうした作業が一つにつながっています。ピックマトックも、カタログを見て選んだというより、実際に山で使っているうちに残ってきた道具です。自転車の道具も同じですが、スペック表だけでは分からないことがあります。実際に使ってみる。使いやすいかどうかを確かめる。何度も使っているうちに、自分の道具になっていく。このピックマトックも、そんな道具の一つです。

ロープ、滑車、折畳鋸も山へ持って行く
革カバーを作ったのは8つですが、MTBで山へ入るときには、ほかの道具もあります。折畳鋸。ロープ。滑車。
倒木があれば、折畳鋸を使うことがあります。人の力だけでは動かしにくいものなら、ロープや滑車を使うこともあります。何が必要になるかは、その日の山に入ってみないと分かりません。だから、毎回少し考えます。今日は何を持って行くのか。何は置いて行くのか。自分で背負って行ける量には限界があります。だから、全部持って行くのではなく、その日に必要そうなものを選ぶ。この制限があるからこそ、道具の使い方も、運び方も考えるようになりました。

使って、記録して、また次に生かす
東多久の革工房で作ってもらった8つの道具に合わせた革カバーは、完成した時点で終わりではありません。むしろ、ここからがスタートです。実際に使ってみれば、最初に思っていたことと違う部分も出てくるでしょう。この形のほうが使いやすかった。ここはもう少し工夫したほうがいい。そんなことも、使い続けて初めて分かります。革も傷がつき、色が変わり、少しずつ道具になじんでいく。その変化を見ながら、必要なら手を入れる。自分で直せなければ、作った職人へ相談する。長く使うというのは、最初から完璧なものを手に入れることではなく、使いながら、自分に合ったものに育てていくことなのかもしれません。

これは、自転車の仕事にも、里山での活動にも共通しています。里山ラボでやっていることも同じです。
山へ行く。使ってみる。気づいたことを記録する。次に変えてみる。また試す。
最初から正解を決めるのではなく、実際の現場で試しながら、その答えを探していく。今回、紹介した革カバーも、そんな里山ラボの小さな実験のひとつです。
数年後、この革がどんな表情になっているのか。今の形が本当に使いやすいのか。だから、まずは使う。そして、変化を記録する。東多久の職人の手仕事を厳木の里山で使い、その結果を次の工夫につなげていく。完成した8つの革カバーは、そのための答えではなく、これから始まる記録の一つです。
Tags: 革、道具