「潮を読んで山を歩く」遊漁船の経験が里山の猪猟を変えた話とは?

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ブリット野口です。

異なるフィールド、共通の「読み」
釣り、特にエギング(アオリイカ釣り)と、山でのくくり罠を使った猪猟。一見、水辺と山奥でまったく接点のない二つの活動ですが、遊漁船でのエギングを見学する経験が、私の猪猟の成果を劇的に向上させるという驚くべき出来事がありました。里山での狩猟は、体力を要するだけでなく、獲物の痕跡(足跡、食痕、ヌタ場)を読み、罠を設置する場所とタイミングを見極める、知的なゲームです。そして、その精度を上げたのが、遊漁船の船長から学んだ「自然を読む力」でした。

遊漁船で学んだ三つの「流儀」
私が遊漁船でのエギング見学で得た学びは、以下の三点に集約されます。

1. 潮流を読む
<獲物の「通り道」を見抜く力>

遊漁船の船長は、海底の地形図、潮汐表、そして海面のわずかな変化から、アオリイカがエサを待ち伏せする「潮の淀み」や「流れの壁」を正確に予測します。イカは潮通しの良い場所や、潮がぶつかり合う場所に集まるベイト(小魚)を狙っているからです。この「獲物の通り道を読む」視点を、里山に応用しました。

<猪の通り道(獣道)の再解釈>
これまで漠然と「太い獣道」に罠を仕掛けていましたが、船長の教えをヒントに、「地形が変化し、猪が必ず通らざるを得ないボトルネック」を探し始めました。
➀山を流れる小さな沢が合流する地点。
➁急斜面から緩斜面に変わるエッジ部分。
➂猪がヌタ場(泥浴び場)から寝屋へ移動する際の、最も楽で遮蔽物が多いルート。
まるで海流のように、猪の移動にも「効率的で安全な流れ」が存在する。この視点の転換が、罠の設置精度を格段に上げました。

2. 風を読む
<獲物の「警戒心」を逆手に取る。

エギングにおいて、風はエギのフォール姿勢を崩し、ラインを流す大敵です。しかし、船長は風向きを利用して、船をポイントに留めたり、ラインのたるみをコントロールしたりと、風を味方につける術を教えてくれました。この知識を、くくり罠猟に活かしました。

➀罠設置後のチェックルートの改善
猪は非常に鼻が利き、人間の匂いを察知すると、そのエリアを警戒して寄り付かなくなります。これまでの私は、罠の確認時に知らず知らずのうちに、自分の匂いを広げていました。
➁風下からのアプローチの徹底
船長から学んだ風の読み方を応用し、罠を確認しに行く際は、必ず風下から罠にアプローチするように徹底。これにより、私の匂いが猪の通り道に流れるのを最小限に抑え、猪の警戒心を高めずに、罠の効力を維持できるようになりました。まるでイカが風で警戒しないよう、ラインコントロールをするかのごとく、自分の匂いの「流れ」をコントロールしたのです。

3. タイミングを読む
<獲物の「活性」を見極める>

船上では、潮の満ち引きや時間帯、水温の変化に応じて、イカの活性が上がる「時合い」があります。船長はその時合いを見極め、的確にポイントへ移動します。里山にも同じように「時合い」があります。

➀気象条件と出没時間
猪は雨上がりや夜間など、特定の気象条件で活発に活動します。遊漁船で学んだように、特定の潮位(=特定の気象条件)とイカの活性(=猪の活性)を結びつける思考法を応用。
「満潮前後で活性が上がる」→「冷え込んだ後の晴天の朝に食痕を探す」
「潮止まり前後の緩やかな流れで大型が動く」→「夕方の薄暮時に主要な獣道をチェックする」
この「時合い」を強く意識するようになったことで、無駄に山を歩く回数が減り、最も猪が動きやすい場所とタイミングに罠を仕掛けるという、「一点集中型の効率的な猟」が可能になりました。

結論自然の法則は一つ」
エギングと猪猟、フィールドは違えど、そこにある自然の法則は一つでした。遊漁船で得た「獲物が好む環境の変化と、それに対応した戦略」という知性は、里山で猪を追う上での最高の羅針盤となりました。単に場所を追うのではなく、「獲物がなぜそこにいるのか」という理由を、潮の流れ、風の流れ、そして、時間の流れから理解する。この経験を通じて、私の狩猟は単なる「設置」から、自然との奥深い「対話」へと進化を遂げたのです。これからも、この「潮を読んで山を歩く」姿勢を忘れず、自然の恵みに感謝しながら、狩猟に励んでいきたいと思います。

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